大企業の相次ぐ「賃上げ」は同調圧力か!「今までは何だったの?」と怨嗟の声

 経団連の十倉雅和・住友化学会長は、1月10日に春闘を見越して「賃上げは企業の社会的責任」と言い切った。そして春闘を待たずしてキヤノンは1月にベア(ベースアップ)月額7000円を実施、セコムも昨年11月に月額2000円のベアを実施している。

 他の多くの大企業も「社会的責任」を全うしようと、ベアを宣言。さらにユニクロが最大4割の賃上げを発表して話題になった。だが一方でこれを問題視する向きも。賃上げの対象が正社員となっているからだ。

 週刊経済誌の「東洋経済」は昨年2月、有価証券報告書を元に非正規社員をそれまでの5年間で増やした会社ランキングなるものを掲載していたが、堂々1位となったのがユニクロだった。増加数は3万7000人弱で、5年前比で140%増。今回、最大4割も賃上げされるのは国内の正社員8400人ということだが、昨年8月時点のパート・アルバイトを含む連結従業員数は5万7000人に上る。

 ネットやSNSでは、「(初任給30万円になる)ユニクロの新人社員が大半の国民より高給取りになった我が国」だとか「ユニクロ末端販売員の時給も4割り上がるなら本物だと思うけど。上級国民だけなのでは?」などと、怨嗟の声が上がっている。ただ、ファーストリ社は今後、非正社員の賃上げも想定しているというから、その姿勢は評価すべきだろう。

 このように、多くの企業で賃上げが実施されるのは喜ぶべきことで、日本経済も少しは上向くことだろう。だが、どうしても浮かぶのが「今までは何だったの?」の声だ。これまでずっと企業の内部留保の厚さが問題視されてきた。企業側の主張は金融危機など会社のピンチに備えるの一点張りだったのに、一転してあらゆる企業が諸手を挙げて「賃上げ」「賃上げ」と言い出した。そこには「社会的責任」というより、日本ならではの同調圧力の存在が見てとれる。また時代遅れの企業に見られたくないという横並び意識だ。

 また大企業では「インフレ手当」なるものも流行っている。

「帝国データバンクが昨年11月に約1200社を対象に調査したところ、インフレ手当に前向きな企業が26.4%もあったといいます。平均額は一時金で5万3700円、月額手当が6500円だったそうです。物価上昇率が賃上げ率を上回ったため、可処分所得が以前より減って厳しくなっているというのがほぼ全ての企業に共通の理由でしょう」(経済ジャーナリスト)

 だがこれも「今だけ」との思いが付きまとう。値上げが相次ぐ今だからというのが企業の理屈だが、「じゃあその分を常々賃上げしておくことは出来なかったのか?」という疑問があがり、一時的な目くらましの意図が透けて見える。

 賃上げに踏み切った企業として例に上げたキヤノンにしてみても、ベアは20年ぶりという。失われた30年の間に、一度上げたら固定化してしまうベアは不用意にしてはいけないという意識が企業に染みついた結果だろう。ましてや賃上げの嵐が過ぎ去るのを待つようにしてインフレ手当で済まそうとしている企業もあるやもしれず、そういった企業は特に今後注視すべきだろう。

マネー