日本ハムがソフトバンク・田中正義投手の人的補償による獲得を正式に発表した。「正式に」というのは、新庄剛志監督の“フライング”があったため。去る1月9日、日本ハムはスカウト会議を開き、そこで近藤健介外野手のフリーエージェント移籍にともなう人的補償を誰にするのか、その最終的な話し合いが行われ、
「最初の文字が『た』かな?」
と、新庄監督がリップサービスをしていたのだ。
稲葉篤紀GMは「非常にポテンシャルが高く、その持っている能力に期待して、田中選手を選ぶという結論に至りました。ストレートの強さに魅力を感じますし」とコメントしたが、9日の最終会議後に即発表とならなかった理由は1つ。“田中の故障癖”で、昨季も右肩痛で一軍登板はわずか5試合に留まっている。
「日本ハムが即決できなかった理由はケガ。日本ハムとソフトバンクの環境の違いに期待するしかないですね」(スポーツ紙記者)
ソフトバンクは選手層の厚いチームだ。そのため、故障などで長期離脱すれば、以前の居場所を取り戻すのは並大抵のことではない。しかし、日本ハムは先発、救援ともに人材不足の状況にある。プロテクト名簿漏れした多くの選手の中から田中が選ばれたということは、日本ハム内に確固たる「働き場所がある」ということなので、田中本人も精神的なゆとりが生まれるのではないだろうか。
ソフトバンクの関係者が言う。
「藤本博史監督が就任した直後の一昨年秋のキャンプですよ。藤本監督は『キャンプの投手陣のMVPは田中』と話していました。名前を出すことで、田中のモチベーションを上げてやろうという親心でした。ファーム指導の長い藤本監督は、リハビリ組に落ちたときの田中も見てきました。環境が変われば…という思いもあったみたい」
日本ハム側は先発要員として田中を計算しているという。改めてメディカルチェックもし、投球数に制限が必要と分かれば、救援に回すそうだ。ここまで配慮してもらえれば、田中も精神的なゆとりが持てることだろう。
(飯山満/スポーツライター)