今回で101回目を迎えた高校サッカー選手権は、ベスト16の3回戦から決勝まで、半分以上がPK戦までもつれ込むという接戦が多い大会となった。
注目されたのは神村学園のエースストライカー、福田師王。すでにブンデスリーガ1部のボルシアMG(ボルシア・メンヒェングラートバッハ)入団が内定しており、どんなプレーを見せてくれるのか期待されていた。
現に実況アナウンサーは、まるで将来の日本サッカーを背負う逸材のような感じで絶叫していたが、正直、そこまでの違いを見せることなく準決勝で姿を消した。
ここ数年、高校選手権から“怪物”と呼ばれる選手が出てきていないし、J1を見ても選手権育ちのスーパーな選手は見当たらない。カタールW杯で活躍した日本代表メンバーを見ても、Jクラブで育った選手がほとんどで、選手権を経験した選手はほとんどいない。今の日本サッカーの環境は、Jのアカデミーで育ち、トップチームで活躍して欧州に移籍する。それが日本代表への近道になっている。
そういう状況の中で、高校選手権を盛り上げるために、無理やりスターを作ろうとして過剰な報道をするのはいかがなものか。
そもそも、なぜ福田がボルシアMGに入団できたのか。日本サッカー協会はドイツサッカー連盟はもちろんのこと、バイエルン・ミュンヘンともパートナーシップを結んでおり、その一環として昨春、ユース世代で期待される数人がバイエルンやほかのクラブの練習に参加した。その結果、尚志高校のチェイス・アンリがシュツットガルトに移籍し、今年の10月に福田のボルシアMG加入も発表されたということ。バイエルンはサガン鳥栖の福井太智を獲得。今年1月にはチームに合流する。
クラブの名前だけを見れば凄いクラブばかりだが、3人ともトップチームではなくBチームに所属しドイツの4部リーグでプレーすることになる。チェイス・アンリは今季4部リーグで試合に出場している。4部リーグというのはプロリーグの1番下のカテゴリーと言ったほうがいいかもしれない。対戦相手の中にはセミプロのチームも存在する。
高校を卒業して欧州に挑戦する日本人選手は珍しいというが、決してそうではない。各国の3部、4部リーグにはたくさんの日本人選手がプレーしている。ドイツの4部リーグでも、日本国内では無名だが10人以上の日本人選手がプレーしている。その中には高校を卒業してすぐに、夢を追いかけ欧州に挑戦した選手も少なくはない。
どういう条件であっても、福田はプロという土俵の上に立ったのは間違いない。ここからは実力勝負。Bチームからトップチームに昇格して活躍できる選手はひと握り。福田のポジションはFWで結果がすべてのポジション。数字を出せば必ず上に上がれる。
近い将来、日本に良いニュースを届けてくれることに期待したい。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップアジア予選、アジアカップなど数多くの大会を取材してきた。