習政権を焼き尽くす!?「ウルムチ火災」の怒りの劫火は何処に向かうのか

 習近平主席が「完璧なる独裁」を確立してからわずか1カ月後の11月24日、中国・ウルムチで発生した火災事故への怒りが4000キロ離れた上海市まで飛び火。上海のど真ん中で「追悼集会」となり、さらに北京、西安、武漢、成都、広州、香港へと怒りは伝播し、「習近平退陣」「共産党不要」と、本来なら声にならない声が「抗議集会」となって、中国全土で巻き起こった。

 共産党批判の許されない中国では、これは天安門事件以来の騒動と言っていい。

 1949年の共産党建国以来、政府批判することは自分の人生ばかりか、一家一族に災いが及ぶことを、中国人は文字通り遺伝子レベルで脳に焼き付けている。
 
 しかも習近平政権では、国民を監視するためのシステム構築に軍事費を上回る予算を投入。監視カメラを中国全土に設置すると同時に、インターネットを外国から遮断し(グレートファイヤーウォール)、監視の網を張りめぐらせ、政治批判や自由な言論・情報の収集は出来ない仕組みにしてきた。さらに社区(単位住居)の住民で相互監視させる制度を進めていて、政府批判は起こらない体制になっているのだ。
 
 ところが、信じられないことに、「ウルムチの怒り」は一夜にして中国全土に広がってしまった。これは、なぜなのか。
 
 ウルムチ市で起こった大火事についていま一度考えてみる。
 
 ウルムチ市は中国最西端の砂漠地帯に広がる新彊ウイグル自治区で最大の都市。もともとはウイグル族が占めていたが、建国後の漢化政策で漢族が送り込まれ、今ではウイグル族は約40%(1162万人)の少数派だ。ウイグル自治区では約100万人のウイグル族らが強制収容施設に隔離されているとされ、国連人種差別撤廃委員会が批判している。
 
 そのウルムチ市にあるマンションで大火災が発生したのが11月24日、ウイグル人の住むマンションの電気配線の故障が原因とみられている。
 
 翌25日、この事故を中国を代表する中央テレビが単なる火災として、「10人死亡、9人が入院」と伝えた。しかし、このニュースに多くの中国人が「ゼロコロナ政策を真っ向から問い質すきっかけとなる事件だ!」と直感したようだ。
 
 中国では死者が30人を超す事故は重大事件に分類され、責任者は重い処罰を受ける。それで、事故事件の犠牲者数の発表は最大で10人とすることが多く、マスコミで犠牲者10人と発表された時点で、中国人は大事故があったと理解する。その後、ウイグル人の団体により死者は44人、負傷者100人超と発表された。
 
 問題はウイグルでなぜ大火災が発生したかだ。中国は数十棟のマンションで一つのエリアを作り、周りを高い塀で囲んでいる。そのため、普段でも車と人の出入口が決まっていて、消防車も例外ではない。
 
 ところが、今回のエリアは環境の良くないウイグルだったので周辺の道路が狭く、大型車は通行が出来ない状況にあった。しかも、火事の発生したマンションはコロナ発症の疑いのある住人がいるため出入口が柵で封鎖されたうえ、感染の疑いのある人物の部屋のドアは固く閉ざされていたため、ホースを担いだ消防士が部屋に接近できなかった。
 
 つまり、ウルムチの火事は「ゼロコロナ」に徹したがために、感染の疑いだけで家に閉じ込められた人たちが、煙が充満しても逃げることさえできずに死亡した「人災」と見られているのだ。だから、新彊ウイグル自治区から4000キロも離れた上海市の烏魯木斉(ウルムチ)中路でウイグル人がロウソクや花束を手に追悼に駆け付けたのである。
 
 それにしても、上海市のど真ん中でろうそくを燃やし花束を手向ける人々の背景で、重装備をした公安の車両が道路を埋め尽くし、追悼式を追い払うという事態は異常だった。
 
 習近平政府は何を怖がっているのかと質したくなるが、抗議の波はとどまることなく、中国全土に広がりを見せた。この伝播力の裏には、「ゼロコロナ」に我慢できなくなり、ウルムチ火災の「嘘報道」で爆発した不満の塊があったはずだ。
 
 日本に10年暮らして、ようやく中国的考えから覚め、客観的に中国を見つめられるようになったという中国人の元大学教授が言う。
 
「習近平主席は絶対権力を手にしたが、同時にこれまで支えてくれた太子党、共産主義青年団(共青団)さえも敵にした。しかも、汚職追放を理由に300万名の人生を奪い捨てたから、彼らの妬みどころか、復讐の的になっている。しかも、ゼロコロナで国民が犠牲を強いられたのだから、いつ背後から狙われても不思議はない。そうした事態をかわすために、かつて毛沢東が得意にした、国内対立や台湾の軍事開放のような大胆な手段に打って出るに違いない」

 ますます中国から目が離せなくなってきた。

(団勇人・ジャーナリスト)

ライフ