総務省の11月28日の発表によれば、マイナンバーカードの普及率が60%を超えたという。マイナポイント最大2万円付与の年内一杯までの延長と、24年秋に健康保険証の原則廃止という実質「強制」の“アメとムチ”を使い分けた結果、徐々にだが確実に普及は進んでいるようだ。つい最近も、チケットの高額転売防止、コンビニの無人レジでの酒やタバコの購入時の本人確認でもマイナンバーカードを活用するという政府の方針が伝わっている。
だが今はやっとこさカードを配布しているところで、全然デジタルではない。将来的にはスマホにマイナンバーカードの機能を内蔵させて…というのが方向性としてあるのだが、実はこれ、政府が立ち上げた政策会議で闘わされている議論と真っ向対立するとして水面下でその動向が注目されている。
「安倍政権時代の19年9月にデジタル市場競争本部という諮問機関が閣議決定で設立されましたが、スマホの利用環境を含んだ提言を4月に中間報告としてまとめました。280ページにわたる大部なものですが、この中でスマホでのアプリのサイドローディングを許可するよう法的に義務付けるよう主張されていて、この部分が大いに注目を浴びているのです」(経済ジャーナリスト)
どういうことか。サイドローディングとは、一般的にはスマホのアプリはアップルならアップストアで、アンドロイドならグーグルプレイのアプリストアからインストールするものだが、他のルートからのインストールも認めるというものだ。特にヨーロッパではこの2大プラットフォーマーの寡占につながるというので、サイドローディングの必要性が主張されている。日本でもこの動きに倣うべき、と報告書では述べられているのだ。
だがサイドローディングは正規のアプリストアを通さないことから、スマホにマルウェアが入り込み、スマホが危険に晒される可能性が高くなる。つまりスマホを操作する度に銀行口座やパスワードを外部に送信したり、スマホが盗聴器と化してしまうなど、つまり乗っ取られたような状態になりかねないのだ。ウイルス感染したパソコンのようになってしまうわけだ。
だからアップルは原則としてサイドローディングは認めておらず、アンドロイドは設定を変えて警告画面をクリアした場合のみ許されているというのが現状だ。
「一方で政府はマイナンバーカードのスマホ内蔵に大きく舵を切っている。片や上記のデジタル市場競争本部では、経産省主導でサイドローディングを許可するよう提言を行っている。とすると両者が成り立つには、いつ乗っ取られるかも分からないスマホにマイナンバーカードの情報を載せるということになり、個人情報的に非常にマズいことになるわけです」(同)
デジタル市場競争本部は安倍政権に立ち上がり、マイナンバーカードは菅・岸田政権で本格活用が進められてきた。つまり根はデジタル政策だが来歴が異なるわけで、経産省マターと総務省マターで畑が異なるといったところか。
ようやく6合目を超えたマイナンバーカードの普及をより進める中では、こういった次々に出てくる矛盾を回避する政治の力が必要となるだろう。
(猫間滋)