10月29日に起こった韓国・ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)での転倒圧死事故。大惨事から1週間以上が経過した現在は、警察の初期対応や警備体制をめぐり、警察が警察を捜査するという異常な事態となっている。
韓国警察の捜査本部は11月2日、ソウル警察庁など8カ所を業務上過失致死の疑いで家宅捜索。警備計画の資料などを押収した。
「報道によれば、事故当日の梨泰院にはこの6年で最多となる、去年の2.5倍の人出があり、事故の約3時間40分前から『圧死しそうだ』といった通報が多数寄せられていたといいます。にもかかわらず、警察は出動せずに放置。午後6時以降、事故の通報は400以上に上ったものの、ソウルの警察トップに報告が上がったのは発生から約1時間20分も後でした。まさに人災と言っても過言ではないでしょう」(全国紙記者)
さらに、韓国の日刊紙「ハンギョレ新聞」によれば、管轄区域である龍山区は、行政主催の行事ではないとの理由で、安全管理計画を立てていなかったという。
「ソウル龍山消防署の署員は出動したものの、その数もわずか48人。ソウル警察庁によると、配置した警察官137人のうち制服警官は58人のみで、他はクスリや風紀取り締まりのための私服警官だったといいます」(前出・全国紙記者)
結果、日本人2人を含む156人の命が失われるという大惨事を生むことになったわけだが、地元では「いつかこんな事故が起こると思っていた」という反応が大半なのだという。それが「梨泰院の特殊性にある」と語るのは、韓国在住経験のあるジャーナリストだ。
「梨泰院は朝鮮戦争終結後、基地として栄えた街で、当時は龍山周辺の米軍を相手にしていた女性が集う、一大歓楽街だったんです。高齢者の中には『梨泰院』と聞いただけで、顔をしかめる人もいるほどです。さらに、梨泰院には細長く緩やかな坂の路地が多く、昼間は人通りがあるものの、夜になると一部のエリアは性犯罪や薬物使用事件が発生する『憂犯地帯』という別の側面もありました。そのため3年ぶりのハロウィンとなった今回は、警察としては安全管理よりも、薬物や風紀の取り締まり強化に力を入れていたのです」
梨泰院ではまた、1997年4月、ハンバーガーショップでアメリカ国籍の少年(当時17)が、韓国人大学生(当時22)をトイレ内で刃渡り9.5センチのナイフで刺殺するという『梨泰院殺人事件』も起きている。
今でこそ、Netflixドラマ「梨泰院クラス」の人気もあり、おしゃれなイメージがある街だが、過去には危険な実態もあったようだ。
(灯倫太郎)