フロントと選手に溝…ジュビロがJ1に残れなかったのは当然のなりゆきだった

 ジュビロ磐田が1年でJ2に逆戻りだ。磐田のJ2降格は必然であり、そこにはかつての名門の面影はない。

 今季の開幕前に昨季のJ2得点王であり、チームの得点源であるルキアンをアビスパ福岡に獲られた。福岡がルキアンに提示した年俸は8000万円弱。磐田はその金額に対して引き留められなかった。

 かつて、ドゥンガやスキラッチといった世界的なスター選手に1億円以上の年俸を払っていたクラブだったことを考えれば、今の磐田にはJ1で他のクラブと対等に戦える予算的な体力がないことを露呈した形となった。

 また、フロントは結果重視ではなく長期的なチーム作りを目標に掲げて伊藤彰監督を就任させたが、夏に成績不振で契約解除。この決断に対して、長期的なチーム作りを捨てたフロントと選手の間に溝ができる。夏に補強らしい補強もせず、渋谷洋樹コーチを監督に内部昇格させるという、低迷するチームにありがちの対策。エースストライカーを獲られ、夏に監督をクビにして補強もせずにコーチを監督就任させ、フロントと選手の間に溝。降格は必然だった。

 かつての名門とはいえ、それは「サッカー王国・静岡」の遺産があったからである。昔の日本でサッカーに力を入れている地域はほんのひと握りで、そのひとつが静岡だった。現に初めてW杯に出場した1998年フランス大会は日本代表メンバー22名中9人が静岡出身の選手だった。でも、今は伊藤洋輝がギリギリ選ばれるかどうかだ。

 Jリーグの人気が出て、クラブも全国に誕生したことで全国でサッカーの強化が行われるようになった。しかも指導者ライセンス制度のおかげで指導方法のマニュアルもでき、地域間の差がなくなってきた。だから今の静岡は「サッカー王国」ではなくなった。しかも少子化の影響もあり、人口の多い首都圏のチームが強くなるのは自然の成り行きかもしれない。

 磐田市の人口は17万人弱。甲府市の19万人よりも少ない。スタジアムの大きさもJ1ライセンスギリギリの約1万5000人収容。入場料収入にも限界がある。つまり、街の規模やクラブの大きさを考えれば、今の磐田はJ1で優勝を目指すチームではないということ。

 大事なことは、百年構想の地域密着。小さな街の小さなスタジアムだけど、J1だろうがJ2だろうが常に満員になるサッカーの街になること。そして、サポーターはかつて黄金時代があったこと、アジア王者になったというプライドを持って応援してほしい。

(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップアジア予選、アジアカップなど数多くの大会を取材してきた。
 

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