米国防総省が、「ロシアが毎年行っている定期的な演習」として、ロシアから核軍事演習「グロム」実施の通知があったと説明したのは、25日のこと。
ところが翌26日には、プーチン大統領の監督の下、陸海空軍部隊による核弾頭搭載可能なミサイルの発射演習を行った、とロシア大統領府が発表。通知翌日というあまりにも早いタイミングでのニュースに、全世界に衝撃が走っている。
全国紙記者が解説する。
「ロシア大統領府によれば、今回の演習では北部アルハンゲリスク州にあるプレセツク基地から大陸間弾道ミサイル『ヤルス』が、また、バレンツ海を航行中の潜水艦から弾道ミサイル『シネバ』が発射されたほか、長距離戦略爆撃機『ツポレフ95』からも巡航ミサイルが発射されたとして、大統領府は『全てのミサイルが標的に命中した』とコメントしています。『グロム』(雷鳴)は、ロシアが毎年秋に実施している定例の核ミサイル発射演習ですが、2020年には実施を見送り、直近ではウクライナ侵略開始直前の今年2月19日に行われたのが最後。ただ、ウクライナ戦で劣勢を伝えられるロシアが、いつ核兵器を使用してもおかしくない状況下での演習ですからね。緊張がさらに高まることは必至でしょう」
米国とロシアとの間には新戦略兵器削減条約(新START)があり、ロシアが演習を行う場合には事前通知の義務があるため、米国防総省のライダー報道官は25日の時点で、「米国は通知を受けた。この件に関してロシアは軍備管理上の義務や透明性のコミットメントを順守している」と述べていた。
「一方で、バイデン大統領はロシアが核兵器を使用すれば『想像を絶する重大な過ちを犯すことになる』と強く警告を発しています。これは、対ウクライナ戦に苦戦するロシアが、核兵器の使用を正当化するための『偽旗作戦』として、放射性物質や生物剤・化学物質を含んだ、ロシアが言うところの“汚い爆弾”を使う可能性があるとみて、強くけん制するために釘を刺したもの。米国防筋では今回の演習が即、核兵器使用に繋がるとは考えづらいとしていますが、ハードルが低くなったという印象は拭えません」(同)
専門家によれば、ロシアが戦術核兵器を使用する場合、戦場単位で使える射程の短い小型核兵器が配備される可能性が高く、威力は0.3キロトンから100キロトンと言われる。
「1945年に米国が広島に投下した原爆は15キロトンで、あれほどの壊滅的な被害をもたらしたわけですからね。100キロトンとなれば、とんでもない被害が起こることは火を見るよりも明らか。そのデメリットを考えれば、最前線でロシアが核兵器を使用することはないだろう、というのが専門家の見方です。代わりに、水上や上空で核爆弾を爆発させることにより電磁パルスを発生させ相手側の電子機器を破壊するなど、そうした目的での使用も可能性として残ります」(同)
ロシアが核兵器を使用した場合、制裁に消極的だったインドや中国も対ロ制裁に加わる可能性があり、そうなるとプーチン大統領は世界で完全に孤立する。今回の軍事演習が核使用にエスカレートしないことを願うばかりだ。
(灯倫太郎)