コロナ後遺症の中で倦怠感と同様に悩ましいのが「ブレインフォグ」だ。頭の中が霧やモヤがかかったようにぼんやりしてしまい、記憶障害や認知機能障害が生じてしまう。
「脳にコロナウイルスのタンパク質が入り込んだのが原因です。血流が悪くなり、脳が機能障害を起こしてしまいます。これまで1時間で完了した作業が3時間かかるようになることもザラにあります」(浅川氏)
コロナ後遺症外来のパイオニアでもある前出の望月院長のもとにも同様の相談が寄せられているようで、
「何気ない世間話をするだけで疲労困憊になるそうです。健康な人でも日常会話レベルの言葉を考えるだけでも脳に負荷がかかるものですが、取り立てて疲労は感じませんよね。症状の重い方の中には、2〜3分、仕事の電話をしただけで3時間寝込んでしまうケースもあります」
オミクロン株が主流となった今では、あまり聞かれなくなった、味覚・嗅覚障害に苦しむ世代もいる。
「10代後半の世代です。それも臭いがまったくしなくなるわけでないのが大問題で、コンビニのホットスナックから『腐敗臭』、シャンプーや柔軟剤などの香料から『ドブ臭』というように一部の匂いが不快なものに置き換わってしまうようです。そのため、だんだん食事が喉を通らなくなり、拒食症のような症状になる例もある。ろくに栄養を摂取できなければ、なおさら体調が悪化してしまいます」(望月院長)
ひいては、倦怠感との合併症を引き起こしてしまう。もっとも、ダメージを受けるのは体だけではない。コロナ後遺症の魔の手は人間の心まで侵食するというのである。
「己の無力感に苛まれて気分が落ち込んでしまいます。特に、人生で成功してきたエリートほど、その落差で鬱状態になる傾向があります。しかも、世間のコロナ後遺症への理解は進んでいません。そのため、長期休養の果てに半ばクビを宣告されることも少なくない。将来への不安からさらにふさぎ込んでしまう悪循環に陥ります」(浅川氏)
その終着点には最悪のシナリオが待ち受けている。
「最も警戒すべきは自死です。自死する人は死にたいという願望よりも、辛い現実から逃げたくて命を落としている。無縁社会やテレワークの影響で、人間の孤立は深まっています。自殺者の90%は病院にかかっていない未治療の人です。どうか1人で抱え込まずに病院を受診していただきたい」(浅川氏)
無気力化した先に絶望的な自死が待ち受けようとは、何とも切ない結末である。
*コロナ後遺症に「生きる気力を奪われた」人たち(3)に続く