ナンシー・ペロシ米下院議長が訪台したことで始まった、中国による台湾周辺での大規模軍事演習だが、これを終えた8月10日に機会に合わせるように中国は「台湾白書」を発刊した。
「台湾白書が発刊されたのは、93年と00年以来3度目で22年ぶりのことです。全35ページ、1万4446字で、正確には『台湾問題と新時代の中国統一事業』というものです」(全国紙記者)
タイトルから見ても分かるように、おそらくは今年秋に行われる中国共産党全国大会で習近平が前例のない3期15年の国家主席となった新時代には、中国の統一事業として台湾問題が横たわっているというものだ。だから白書では統一の正統性が主張されると同時に、その政治体制としては「1国2制度」が用いられるとしている。
「白書ではこの『1国2制度』のワードが頻発、計15回も使われています。1国2制度と言えば、イギリスから中国に返還された香港でもこれが敷かれていましたが、最終的に踏みにじられたのは見ての通りです。返還から25周年の節目となった今年7月1日には、保安局長や国家安全維持委員会事務局長として反政府意見の弾圧を行ってきた李家超を香港政府トップの行政長官に据えたばかりですからね」(同)
そして統一事業は「力」をもってでも行われるよう、路線の変更を明文化している。過去2回の白書では、台湾には軍隊を駐留させず、行政人材も派遣しないとしていたものが、「分離主義者や外部勢力の挑発が我々の限界を越えれば、我々は激しい対策を取らざるを得ない」などとし、「我々は武力使用を放棄すると約束しないで、必要なすべての措置を取るというオプションを維持する」としているからだ。つまり「1つの中国」の断行のためには、軍事力の使用を辞さないということだ。
徐々に正当性を主張して、やがて既成事実化する。この手のやり方は中国お手の物だが、とりあえずはこの秋に行われる中国の党大会とアメリカの中間選挙の結果を踏まえた米中関係が注目される。
(猫間滋)