事前予想は大接戦と報じられていたが、トランプ氏の圧勝に終わった米大統領選。任期の上限が2期8年となっている米国で大統領に返り咲いたのは、1885-1889年と1893-1897年のクロバー・クリーブランド氏のみだ。
まさに異例とも言える再選だが、これが国際情勢にどのような影響を与えるのか。トランプ氏はかつてウクライナ戦争について「自分が大統領なら24時間以内に終結させる」と語っており、同国への軍事支援に消極的な立場であることが伝えられている。
「戦争によってアメリカの軍需産業は増益増収となっていますが、軍事支援の負担はあまりに大きい。キール世界経済研究所(独)によれば、米国によるウクライナ支援はこれまでに900億ドル(13兆9000億円)に上っている。加えて、米国企業のロシア撤退による経済損失も計り知れず、トランプ氏はこの状況を打開したいと考えています」(ジャーナリスト)
そのため、現在ロシアに実効支配されているウクライナ東部からクリミア半島にかけて停戦ラインを引く形で、米国が和平案を示すことは十分ありうるという。ゼレンスキー大統領にとっては受け入れ難い悪夢のシナリオだが、米国の支援がない中で戦争を続けるのは容易ではないだろう。
逆に、トランプ氏が停戦に消極的と言われているのが中東情勢だ。
「イスラム系以外の米国人の間でもイスラエル批判が高まっており、反イスラエルのデモが各地で行われていますが、トランプ氏は『ユダヤ人に対するヘイトを排除する』と明確に打ち出しています」(同)
トランプ氏の娘婿のジャレッド・クシュナー氏はユダヤ系で、結婚を機に娘のイバンカさんもユダヤ教に改宗。さらに前回の大統領就任中には在イスラエル米国大使館のエルサレム移転をはじめ、歴代の米国指導者では初めて在任中にユダヤ教の聖地・嘆きの壁を訪問した。一時はイスラム教徒の入国禁止を掲げるなど、露骨なまでのイスラエル寄りの姿勢だ。
われわれ日本がより気になるのが台湾有事だが、中国に「関税60%」と貿易戦争をほのめかす一方、台湾の安全保障に関しては後ろ向きだ。
「半導体ビジネスが100%台湾に盗まれた」と米メディアの取材に語っており、台湾に対する言葉は攻撃的。軍事面でも「台湾は防衛費を払うべきだ。われわれは保険会社と変わらない」と不満を述べており、増額に応じなければ台湾放棄という事態もないとはいえない。そうなれば、台湾・頼清徳総統にとってまさに悪夢だ。
いずれにしても、バイデン時代からガラリと変わり、「アメリカファースト」を隠さないトランプ外交。来年1月の就任以降、各国は大きな政治判断を求められそうだ。