TikTokを「完全禁止」にできない台湾のジレンマ

 現在、世界で10億人の月間アクティブユーザーを持つとされる中国発の動画共有アプリTikTok。これまで同アプリが作り出した商品やビジネス、さらにエンタメにおけるトレンドは数知れず。若者たちの間で、今やなくてはならない存在であることは言うまでもない。

 ただ、親会社の中国企業「バイトダンス」は中国共産党と密接な関係にあるとされるため、TikTokを通じ同社が個人情報を流出させ、中国共産党による世論操作に利用されているのではないか、との懸念の声が広がっていた。

 そんな流れを受け、オーストラリアやイギリス、フランス、カナダほか多くの国々が、TikTokの利用を一部ないしすべて禁止にする措置に踏み切り、約1億7000万人のユーザーがいるとされる米国でも、2024年4月には米連邦議会がバイトダンスに対しTikTokの米国事業売却を指示。期限内に売却しない場合、国内でのアプリ提供や更新を禁止する規制法案を可決させた。

 ところが、規制法の施行日である1月20日、突如トランプ大統領が規制の適用を75日間延期」するとの大統領令に署名。全米の若者からは「TikTokはトランプに救われた!」と称賛の声が巻き起こった。

 トランプ氏自身も昨年の選挙運動ではTikTokを大いに活用しており、むろん今回の猶予には若い有権者の支持を獲得しようとする狙いがあるほか、何らかの政治的な意図があることは間違いないが、この TikTokを巡り、国を揺るがす大問題勃発が懸念されている国がある。それが中国との間で緊張関係が続く台湾だというのだ。

「台湾におけるTikTokの普及率は22%程度と他国に比べさほど高くはないのですが、これが13~15歳になるとその割合が約60%に跳ね上がるという。台湾のシンクタンク『Doublethink Lab』の調査によれば、TikTokのアルゴリズムは、InstagramやYouTubeなど他のアプリに比べ、はるかに『不均衡に高い比率』で、中国共産党に有利なコンテンツを提示し、それが台湾の若者のアイデンティティに大きな影響を与えている可能性があるとの結果が出たというんです」(外信部記者)

 つまり同シンクタンクは、バイトダンス社がTikTokを利用し、台湾の若者の中国への抵抗感を下げている可能性があると分析しているのだが、この発表がメディアで広く取り上げられ、台湾国内で波紋が広がることになった。

「中国と台湾とはもともと交流は少なかったものの、緊張関係が長引く中で今、台湾の若者たちはSNSなどでしか中国の実態に触れる機会がなくなってしまった。そうした中、TikTokでは日々興味をそそる映像を鑑賞でき、それが中国共産党に有利なコンテンツに導かれる。そうなれば、TikTokで中国に幻想を抱くような若年層が増えていく可能性は否定できない。実際、台湾では若年層の投票率が毎年低下しており、政治的への関心が薄れていることが問題視されていますからね。これがTikTokを使った中国の政治的プロパガンダなら恐ろしい限りですね」(同)

 懸念の声を受け、台湾の与党・民進党の議員のなかには、TikTokアプリの使用は国家安全保障上の脅威だとして、使用禁止を訴える者も多い。すでに公的機関の情報通信設備でのアプリダウンロードや使用は禁止されているが、若いユーザーからは、「言論の自由への冒涜だ」との反発も多いことから完全禁止にはできず、政府・教育関係者も対応に手をこまねいているのが現状だという。

 TikTokの後ろに見え隠れする中国共産党。台湾はそう処理するのか。

(灯倫太郎)

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