死せる孔明、生ける仲達を走らす。『三国志』から採られた故事で、天才軍師の諸葛孔明が戦中に病没したのだが、これを知らなかった敵将の仲達が孔明を恐れて退却したことから、大人物は死しても後世の人を動かすことを意味する。
威光だけが働いているわけではないが、もともと韓国で日本に対して融和政策をとりたい尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が誕生して、最悪と言われる日韓関係改善の道を模索していた中、安倍晋三元首相が凶弾に倒れたことで、韓国から要人が弔問団として来日するなど、結果的にシャトル外交が復活した形となっている。
その後、韓国外交部の朴振(パク・チン)長官も来日、18日には林芳正外相と徴用工問題について話し合った後、19日には岸田首相を表敬訪問して、シャトル外交復元のメッセージを伝えた。
表面上は以前に比べれば格段の融和ムードが流れているわけだが、そこへきて、いやだからこそか、本来は日本国内では心配する必要のない韓国の内政問題を気にする声が日本国内からも出てきている。尹大統領の支持率の問題だ。
「ここへきて主要メディアから、尹大統領の低い支持率を懸念する報道が複数出ています。通常、政権誕生直後は『ハネムーン期間』と言って、100日間は周囲も新政権を見守るので、新政権は高い支持率で推移するもの。ところが尹大統領の支持率は、5月の就任時は50%超だったものが、わずか2ヶ月間で30%台で、いまや30%すら割りそうな勢いに。日韓融和には徴用工問題や竹島問題が必ず顔を出すので、国内の支持がないと解決は不可能。日本のメディアが『大丈夫かいな』と、これを問題視するのも必然でしょう」(全国紙記者)
いま日本に、メッシやネイマールやエムバペらスーパースターが所属するフランス・サッカーリーグの世界的強豪「パリ・サンジェルマン」(PSG)が、川崎フロンターレや浦和レッズなどと対戦するため来日しているが、この来日イベントを宣伝する広報映像に旭日旗が使われていたとして、韓国国内で問題になった。
その直前の7月頭には、11月に韓国公演を行う予定のアメリカの人気バンド「マルーン5」のツアーポスターに旭日旗が使われているといって騒動になったばかりだ。
市民やネットの声ばかりではない。安倍氏が亡くなった当日の7月8日には、駐福岡韓国総領事館が公式ツイッターに「身辺安全に注意」とのタイトルで、「韓国を対象にした嫌韓犯罪の可能性」があると警告を出すも、抗議にあって削除するという事があった。行政でさえこうなのだ。
「支持率低下の主な理由は、党代表の性的接待疑惑や尹大統領が外遊先に親族を伴ったとの優遇問題に加え、閣僚級の候補者に疑惑が続出して4人が辞任、未だ人事が固まっていないという、ガタガタな状態に国民が嫌気を差したからです」
聞けば聞くほど、国内がそんなことで外交がうまくまとまるとも思えないのだが。
(猫間滋)