「インド洋の真珠」と呼ばれる、緑豊かな南の島国スリランカのラニル・ウィクラマシンハ首相が議会の演説で、国の破産を宣言したのは今月5日のこと。
スリランカはここ数年で経済危機が急速に進み、スリランカ中央銀行総裁が5月19日に「債務が再編されるまで支払いはできない」と事実上のデフォルト宣言していた。これにより「国家が破綻するのも時間の問題」との懸念が広がっていた。
「長年スリランカの政治は、現大統領のラジャパクサ一族に牛耳られ、国家予算の70%を支配していたと言われます。そのラジャパクサ一族が長期にわたり蜜月関係を続けてきたのが中国で、シーレーン戦略『真珠の首飾り』を目指す中国は、スリランカをアジアと中東・アフリカを結ぶ海上交通路の要衝として狙いを定め、南部のハンバントタ港などの港湾整備のために莫大な資金を融資してきました」(中国事情に詳しいジャーナリスト)
ところが、港湾整備はしたものの業績はあがらず、債務返済が滞ったスリランカ政府は結局、ハンバントタ港を2017年から99年間にわたって中国国有企業に貸し出す、いわば租借地として明け渡すという条件を飲まされている。これがいわゆる「債務の罠」だ。
「米国のシンクタンクによれば、スリランカの対外債務は510億ドルと言われ、さらに、コロナ危機で外貨を稼ぎ出す観光業が大打撃を受け、おまけにウクライナ戦争でエネルギー価格が高騰。急激にインフレが進み、それが低所得者・貧困層の生活を直撃し、人々は無償で配られるパンに殺到するありさま。国内各地で暴動が発生するなど、国としてにっちもさっちもいかない状態になっています」(同)
スリランカのデフォルト宣言により、中国はスリランカの港湾施設を手中に収めることに成功したが、
「海洋進出を視野に入れる中国にとって、ハンバントタ港はインド洋と南シナ海を結ぶ軍事的要所とも言えます。軍艦の燃料補給や整備の拠点としてちょうどいいのです。同港の建設支援をした中国は商業利用を強調していましたが、当初から軍事目的ではないのかという疑問の声があがっていたのです」(同)
中国は一帯一路をスローガンに、他の東南アジアの国に対しても同様のアプローチを仕掛けており、そうなると、第2第3のスリランカが出てくる公算も大きい。
「中国によるインフラ開発支援は、債務国の経済的自立性を奪い、中国依存症を深めさせ、結果的に経済、政治、軍事面で中国の影響力を増大させるという構図があります。途上国にとって中国の支援は魅力的ですが、今回のスリランカの例を他山の石とし、長期的見地に立って検討すべきです」(同)
中国から湯水のように金を借りまくり、スリランカを破綻に追い込んだ張本人のラジャパクサ大統領は、拘束を恐れてスリランカを脱出。モルディブを経てシンガポールに向かう見込みであると、3日付けロイターは報じている。ガソリンが枯渇して、国民はいまや電気もガスも通らないロウソク生活を強いられているというのに、その無責任さには開いた口が塞がらない。
(灯倫太郎)