北朝鮮「コロナ惨状」発表の裏に隠された“ある事情”と“ヨモギ燃やし療法”

 昨年には、アストラゼネカと中国製シノバックのワクチン数百万本を供給するという、国際社会からの申し出を拒否。国境の早期封鎖により、新型コロナウイルス流入を阻止してきたと主張してきた北朝鮮。ところが、朝鮮中央通信が17日、北朝鮮で16日午後6時までの24時間に、新型コロナウイルスで新たに約27万人が発熱し、6人が死亡。さらに、翌17日にも約23万2800人の発熱症状が確認され、4月末からの累計で発熱した人は約171万5900人、死者62人、数十万人が隔離治療中であるとして、「悪性感染症の流行が建国以来の大動乱になっている」という金総書記の談話を報じた。

「これまで感染者ゼロとしてきた北朝鮮が一転、感染者急増を発表した理由には、今年4月25日に行われた軍事パレードなどにより、平壌市内で感染者が爆発的に増えたことが考えられます。これまでは地方都市で発熱患者が出ても、幸い隔離すれば平壌までは入ってこなかった。ところが感染力が強いオミクロン株の場合、そうはいかなかったのでしょう。ただし、ワクチン供給の申し出を断ってきた北朝鮮には、当然PCR検査キットなどが圧倒的に不足しているでしょうから、発熱してもそれが風邪なのかコロナなのかを見分けるすべがない。その間にウイルスが広がれば最悪数万人の死者が出る可能性もある。金総書記もさすがにそれはまずいと考え、突然の発表となったのではないでしょうか」(北朝鮮情勢に詳しいジャーナリスト)

 15日に行われた対策会議では、金総書記が「医薬品の供給不足が解消されていない」と、責任者らを激しく叱責。医薬品の供給に軍を投入する特別命令を出したと伝えられるが、一方、朝鮮中央テレビでは朝から特別番組で、首をかしげたくなる民間療法を紹介。

「番組の中で『コロナから回復した』という人たちのインタビューを紹介しているのですが、その内容が『ショウガ汁や熱いお湯を飲んで、塩水のうがいを継続したら全て治った』『部屋をアルコールで消毒して、ヨモギを燃やし、換気をすると大丈夫になった』というもの。普通に考えたら、部屋でヨモギなんて燃やしたら煙たくて喉を傷め、症状を悪化させそうなものですが…。一方では軍隊まで投入して『医療品不足を解消する』と宣言し、他方ではこういった根拠のない証言を国営放送で流すというのが、この国の不思議なところ。ミサイル1機飛ばす資金があれば、検査キットや医療品がどれほど調達できるのか。金総書記も、そのあたりをよく考えるべきでしょう」(同)

 北朝鮮の発表を受け、韓国政府は要望があればワクチンや医療スタッフ、医療機器などを無制限で援助すると申し出ているが、17日時点でまだ北側からの反応はないといわれる。

 さらに、北朝鮮は90年代の飢饉以降、人口2500万人のうち1100万人が栄養不良に陥っているとされ、平壌だけでなく地方都市がロックダウンされた場合、農業従事者が畑に出ることができなくなり、さらなる食糧生産の危機も懸念される。

 ミサイルを飛ばす余裕があるのなら、まずは、餓死者を減らす努力をするべき。国民の誰もがそう望んでいるはずなのだが…。

(灯倫太郎)

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