北朝鮮「ソウル攻撃訓練」の裏で中南米・アフリカと積極外交のワケ

 連日行われている米韓合同演習「フリーダムシールド(自由の盾)」により、緊張が高まる朝鮮半島。米韓合同演習を「挑発的」「無謀」と非難する北朝鮮は3月6日、7日の両日、その対抗策として砲撃訓練を実施。金正恩総書記も両日とも訓練を視察し、お馴染みの黒い革ジャンパー姿で小銃を構えて指導する写真などが、8日の労働新聞等で大々的に伝えられた。

 ただ、韓国の軍事専門家らによれば、朝鮮中央通信や労働新聞に掲載された写真から読み取れるのは、対テロ作戦などの、いわゆる低強度紛争レベルの基礎的な訓練で「これが直接米韓に対し脅威を与えることはない」との見方が濃厚だ。軍事ジャーナリストが語る。

「7日に行われた北朝鮮軍大連合部隊による砲撃訓練では、火砲が火を噴く写真が大写しで掲載され、『敵の首都(ソウル)を攻撃圏内に収める長距離砲兵区分隊が参加』とあるのですが、南北軍事境界線からソウルまでは50キロ。掲載された写真は、100~240ミリとバラバラで、“とりあえず揃えてみました感”が否めない。『敵の首都を攻撃圏内にする』とするなら、120ミリや140ミリの砲弾を出す必要はない。なぜなら、少なくとも155ミリ以上の口径でなければ、ソウルまで砲弾が届かないからです。つまり、これはあくまでも示威目的の演習、デモンストレーションだということです」

 正恩としては、何としても米韓に脅威を与えたいと考えたのかもしれないが、悲しいかな米韓に多大なインパクトを与えることは叶わなかったようだ。だが、一方、「ソウル攻撃訓練」示威の裏で、ここ最近、北朝鮮が力を注いでいるのが、大使館運営再開を含む、外交の強化だという。北朝鮮情勢に詳しいジャーナリストが語る。

「北朝鮮は昨年末からギニアやネパール、バングラデシュなど世界9カ所の在外公館を閉鎖。近年の北朝鮮は外交よりも外貨稼ぎを優先させてきましたが、先月、韓国がキューバとの電撃的修交を発表したことで、さすがに慌てふためいた。というのも、キューバと北朝鮮は伝統的な兄弟国。その国が『敵対国』と呼ぶ韓国と修交したわけですからね。これは、北朝鮮外交史においても最大の出来事と言っても過言ではない。そこで、北朝鮮は急遽、方向転換することを余儀なくされ、平壌内にある公館を再稼働することで西側との関係を強化していく作戦に転じたというわけなんです」

 北朝鮮は、すでに平壌にあるドイツやポーランド、チェコなど複数の欧州大使館の運営再開について協議を進めているとされ、欧州だけでなく、中南米やアフリカとの関係についても、関係強化に向け積極的な動きを進めているという。

「実際、今月に入っただけでも、国土環境保護相を団長とする代表団がケニアのナイロビで開催された国連環境計画総会に出席していますし、北朝鮮労働党の外郭団体代表団も、ブラジルで開催された世界職業連盟会議に出席し、10日に帰国したと朝鮮中央通信が伝えています。これまで、北朝鮮は制裁と航空燃料不足の問題で、長距離での移動を敬遠する傾向にあった。しかしもはや、なりふり構っていられないという状況。従来の友好国との関係を深めつつ、これまで接点がなかった中南米やアフリカとも外交交渉せざるを得なくなった。そこに北朝鮮の抱えるジレンマが見て取れますね」(同)

 キューバ・ショックが、北朝鮮の「韓国憎し」を増大させたことは間違いなさそうだ。

(灯倫太郎)

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