この報道が事実なら、有識者たちが唱える、中国によるロシア仲裁待望論など、全く意味を持たないことになるだろう。
英紙タイムズが情報機関の文書を入手したとして、ロシアによるウクライナ侵攻の直前、中国がウクライナの軍事機関や核施設などに大規模なサイバー攻撃を仕掛けていたと報じたのは今月2日のこと。記事によれば、攻撃の対象は、国防省の関係機関や国境警備当局をはじめ、銀行、鉄道、核関連機関など多岐に渡った可能性があるとされる。
「時期的には2月20日の北京冬季五輪の閉幕前に始まり、ピークに達したのが23日。ロシアは翌24日にウクライナ侵攻を開始していますから、これが事実なら、中国は侵攻前日まで何らかの意図をもってウクライナに対しサイバー攻撃を行ってきたことになります。3月には米紙ニューヨーク・タイムズが『2月上旬にロシアに北京五輪が閉幕するまで侵攻を始めないよう求めていた』と報じ、中国側が『まったくのうそ』と全面否定しましたが、くしくも今回の英タイムズ報道がそれを裏付ける形になってしまったわけです」(通信社記者)
中国の王毅外相は3月7日の会見で、ロシアのウクライナ侵攻を巡り「必要な時に国際社会とともに必要な仲裁をしたい」と発言。直接関与には慎重な姿勢をみせ、具体的な方法や条件には言及しなかったものの、”仲裁”という文言が全世界に”淡い期待”を抱かせたことも事実だった。
だが、中国がロシアから事前にウクライナ侵攻を知らされていたとしたら、話は別だ。
報道を受け、軍事関係者からは、中国はロシアによるウクライナ侵攻が短期に決着すると読み、この短期攻略シュミレーションを台湾侵略など、領土政策の前例にしようと考えていたのでは、との声も聞かれる。
「そんな目論見が、ウクライナの予想外の反撃と西側諸国による強力な経済制裁により、見事に外れてしまったわけです。とはいえ、ロシアが孤立化したことで、中国はロシアの天然ガスなどのエネルギーや農産品を安価で輸入できるようになり、その代金としてロシアへドルを供給。ハイテク製品等の技術の輸出を独占することで、ロシアに対し大きな貸しを作ることができた。今後、ロシアの弱体化は否めないでしょうから、表面上は経済パートナーシップを構築しつつ、いずれ中国がロシアを属国化するというシナリオも十分考えられます。そうなれば、中国が台湾や日本に侵攻する際、ロシアも協力することになり、連合軍として攻め入ってくる可能性もある。ですから、今後も中国がロシアに対し経済制裁することはないでしょうし、ましてや仲裁役を買って出ることなど、絶対にありえないはずです」(同)
松野博一官房長官は4日の記者会見で、英紙タイムズの報道に対し、「報道の一つ一つにコメントすることは差し控えたい」としつつ、「引き続き、米国などの関係国と緊密に連携しつつ情報収集、分析に努めたい」と語るにとどまったが、危ない隣人に囲まれた日本の行く末が不安でならない。
(灯倫太郎)