その物量の差から開戦前は“3日でキエフ陥落”との見立てもあった、ロシアのウクライナ侵攻。伝えられているように、西側諸国の武器支援や粘り強いウクライナ軍・市民の抵抗があって、当初予想されていたよりはるかにロシアが苦戦している。
奮闘の大きな理由の1つが、弱冠44歳のウォロディミル・ゼレンスキー大統領の存在だ。15年に始まったドラマの『国民の奉仕者』で主演の大統領役を演じて人気を得て、19年4月にには73%の得票を得て大統領に就任した。そのため「コメディアン上がりで外交はズブの素人」と見られていたが、今や団結の象徴として動画を投稿。毅然とした態度で“情報戦”を仕掛けて、世界世論は完全にウクライナ優勢だ。
そのイメージ戦略でひと役買っているのがSNSの存在だが、中国版ツイッター・ウェイボーでの情報戦が過熱している。
「ロシアは15日に軍事演習をしていた部隊を一部撤退させたとしていましたが、アメリカは『16日にも侵攻』と強調して緊張が高まりました。そこでゼレンスキー大統領はこの日を『団結の日』として、在中大使館で行った国旗掲揚の模様を映した動画をウェイボーにアップ。そして連日、反戦声明を打ち出すと、22日にはハッシュタグ『#ウクライナウェイボー声明発表』が検索トップに躍り出たのです」(中国事情に詳しいジャーナリスト)
そして24日にロシアが侵攻すると、西側諸国が続々と“ウェイボー情報戦”に参加。25日にはなんとイギリスのジョンソン首相が中国語でウクライナ擁護のコメントを投稿、26日にはアメリカ国連大使のトマス・グリーンフィールド氏が、国連安保理の決議がロシアの拒否権にあって不発に終わったことでロシアを暗に批判するコメントを中国語に翻訳してアップした。ちなみにジョンソン首相は15日にもプーチン大統領に警告するコメントを、中国国民に対しウェイボーにて示していた。
それまでは対米で共同歩調を取り、中露関係がこんなに良好なのは歴史的に初めてとまで言われていた両国関係。プーチン・ロシアは完全に西側諸国を敵に回したので、孤立したロシアをさらなる孤立に追い込むには、中国との分断を図るのが最良と判断しての情報戦略が行われたと見られる。となると結果、中国も西側寄りの旗色を迫られる。
「実は中国には、1954年に周恩来が当時のインド首相との間で結んだ『平和5原則』というものがあって、内政干渉や領土の拡大を認めていません。この点については王毅外相も、西側諸国の外交筋との電話会談の中で中国の立場として説明しています。一説には、侵攻のタイミングについて中国は寝耳に水だったとの話もあり、中国はロシアの侵攻については態度を表明していません。ロシアに対して非難はしないものの賛同もしないことで西側諸国を敵に回すことはなくロシアの梯子を外し、とはいえ、経済制裁にあえぐロシアに助け船を出して恩を売る、という戦略なのでしょう」(同)
「損をせずに得は取る」という中国外交の老獪さが際立つ。
(猫間滋)