テリー 尾身さんや岡部さんがこの本を読んだら、きっとムッとすると思うんですけど、尾身さんってどういう人なんですか。
岡田 各方面との調整を一生懸命やる「調整型」ですね。平時はそれでいいんですけど、今は緊急時ですから。大ナタを振るわなきゃいけない時に調整ばかりではダメなんです。普段はいい先生なんですけど、崖っぷちの時にどうするかっていう決断力は、緊急時の指揮官にしかないと思いますね。
テリー なるほど。
岡田 やっぱり日本社会って、何かをやって失敗するともう復活できないと思うんですよ。それより何もやらずに失敗したほうが復活できる可能性が高い。これは感染症対策に限らず。
テリー わかります。
岡田 だから日本のコロナ対策も先手先手じゃなくて、「起こったことに対して、じゃあこれ」「次はここが破綻したから、じゃあこっち」って逐次投入になるんです。でも、感染症対策でそれをやられると、感染者の裾野が広がって、大きな山が来ちゃうんですね。第5波がそうでしたけど。だから、そうならないように早く強い対策を短くやる。覚悟を決めて、最悪の事態を想定して事が起こる前にあえてやらないといけないんです。
テリー 尾身さんや岡部さんはやらなかった?
岡田 私は2人がリスクヘッジした方向は「自分」だったと思います。「公」ではなくて「私」なんですね。大ナタを振るって失敗すると非難を受けるから、「起こったことに対して、じゃあ、これで」と。気持ちはわかるんですよ、日本社会は失敗を許さないから。
テリー 特に今は、ネットで袋叩きになりますからね。
岡田 でも、分科会や内閣官房参与という、総理に意見するような「公」に就いた場合には、「私」よりも「公」を優先させなきゃダメなんです。「公」の地位に就いたっていうことは、そういうことですよ。
テリー エラいなぁ。自分を振り返っても、理屈はわかるけど、なかなか実行できないですよね。なんで岡田さんはできるんですか。
岡田 それは最初に言ったように、しがらみがないから。あと私は物欲も名誉欲もないですから、言わなきゃいけないことぐらいはちゃんと言えます。
テリー でも、岡田さんはこの2年間でマスコミの寵児になって、一方では批判されることも多いですよね。
岡田 全然、寵児じゃありません。
テリー 批判されると傷つくじゃないですか。
岡田 でも、そこで言うのをやめたら大流行しちゃいますから。それこそ第5波の時には肺炎の患者さんが自宅療養しなきゃならなくて、感染した妊婦さんが自宅で分娩して、赤ちゃんが亡くなってますよね。そういう厳しさやつらさを考えたら、感染症対策をやってる人間は悪口を書かれるぐらいは耐えないと。それに耐えられずに調整を先に考えるから、結局、医療逼迫や経済への悪影響で国民がより長く苦しむんですよ。
テリー ほんとにスゴいですよね。頭が下がります。
岡田 私がこの本でいちばん言いたかったのは、大ナタを振るうような先手先手を決断した政治家や専門家を非難しない社会を、感染症対策においては作っていこうという提言なんです。それを今の若い人にわかってもらわないと、次の感染症が流行した時に苦労しますよ。同じことを繰り返しちゃいけないんです。
テリーからひと言
この日(21年12月23日)の岡田さんの心配通り、やっぱり日本でもオミクロン株が大流行しちゃったな。皆さんくれぐれも気を付けて。岡田先生もお体を大事にして頑張ってください。
岡田晴恵(おかだ・はるえ)共立薬科大学大学院を修了後、順天堂大学にて医学博士、国立感染症研究所などを経て、現在は白鷗大学教育学部教授。専門分野は感染症学、公衆衛生学、児童文学。感染症対策の専門家として、テレビやラジオへの出演、専門書から絵本、小説などの執筆活動を通して、新型コロナウイルスをはじめとする感染症対策に関する情報を発信している。主な出演番組に『モーニングショー』(テレビ朝日系)、『Nスタ』(TBS系)、『日曜スクープ』(BS朝日)など。最新著書『秘闘:私の「コロナ戦争」全記録』(新潮社)発売中。
*「週刊アサヒ芸能」2月3日号より