神田伯山 初めて聞いた講談は「何ひとつおもしろくなかった」/テリー伊藤対談(2)

テリー 伯山さんは、そもそも何で講談師になったんですか。

伯山 当時、講談って過小評価されてたんですよ。著名人の方でも落語をご存じの方は多くても、講談は本当に誰も知らなくて。僕が最初に行った時も平日のお昼だったこともあって、もう年配ばっかりで、お客さんが全然いないんですね。その時に、「あ、完全にこれ滅びるな」って思ったんです。

テリー それがいつの話?

伯山 大学生です。僕、落語が好きで、その流れで(立川)談志師匠を好きになって、談志師匠が「講談がいいよ」って言うんですよ。「今聞くなら(神田)伯龍だけだな。あれが最後の講釈師だ」って。今となっては、それに対しては僕、異論があるんですけど。

テリー その伯龍さんの講談がおもしろかったんだ。

伯山 いや、それが何ひとつおもしろくなかったんです(笑)。それで、ますます「ヤバいな、この芸能」って思って。「何がダメなんだろう」って考えたんですね、生意気にも。

テリー でも、大学生っていうと19とか20歳ぐらいでしょう。その年でそう考えられたってすごいね。

伯山 いや、入ってみたらもっと奥行きのある世界ではあったんですけど。でも、明らかに常連向けにやっていて、新規の人がとても入りづらい状況でしたね。

テリー でも、講談師になったんだ。

伯山 僕は我慢強い人間なんで、談志師匠の言葉を信じて、回数券みたいなのを買って、1年我慢して行ったんですよ。雨の日とか、ほんとに嫌でね。「何であんなつまんないのに行かなきゃいけないんだ」と思って。

テリー アハハハハハ。

伯山 そうしたら、ある日「雨夜の裏田圃」っていうのを聞いたら、すごくおもしろかったんですよ。耳が慣れたんですね。

テリー そうか、講談に耳が慣れたんだ。

伯山 はい。つまり、講談というのは時間がかかる芸能だったんですね。こういう現象って実は落語でもあって。僕、(古今亭)志ん生師匠の「これがベストだ」って言われてるCDを買って聞いたら、最初全然おもしろくなかったんですね。で、いろんな落語を聞きに行って、1年後に聞いたら、めちゃくちゃおもしろかったんですよ。だから、その時に「そうか、いきなりわかる芸能とちょっと時間が経ってからわかる芸能っていうのがあるんだな」って思ったんですね。

テリー 英語なんかでも急にわかる瞬間があるって言いますよね。

伯山 でも、普通の人はそんなに我慢強くないし、時間もかけられないから、初めて聞きに来た時に「あ、この人おもしろい」って思える人が必要だったんです。でも、待ってても全然出てこないんですよ。まず入門者がいないから。

テリー なるほど。

伯山 それで、生意気ですけど、「あ、これ、ちょっとやってみようかな」と。人前なんか何にも出たことないんですけど、思ったんですね。

テリー 談志さんが好きなら、落語家になろうとは?

伯山 僕は思わなかったですね。お笑いをやる気もなかったですし。

テリー 何でですか。

伯山 僕、嗜好としてマイナーが好きなんですよ。「これ、ほんとはいいのに、まったく誰にも気づかれてないよな」みたいなものにひかれるんです。それで言うと落語ってマイナーの中のメジャーなんですね。あと、「ひょっとしたら今、日本でこんなに講談に注目してる若い奴は俺だけじゃないか」っていう、うぬぼれや使命感もあって。それで今、ここにいるっていう感じですね。

ゲスト:神田伯山(かんだ・はくざん)1983年、東京都生まれ。2007年、三代目神田松鯉に入門し、「松之丞」に。2012年、二ツ目昇進。2020年、真打昇進と同時に「六代目神田伯山」を襲名。「神田伯山のこれがわが社の黒歴史」(NHK)、「問わず語りの神田伯山」(TBSラジオ)にレギュラー出演中。YouTubeチャンネル「神田伯山ティービィー」にて動画配信中。最新著書「講談放浪記」(講談社)発売中。

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