岡田晴恵氏「ワクチンは国防です」/テリー伊藤対談(3)

テリー 今振り返って「もしあの時、ああしていれば、日本はこうならなかった」って思うことって何ですか。

岡田 それはやっぱり検査を絞ったことです。最初は準備が整ってなかったから仕方ない面もある。でも、その時も国民に対して「検査は大事なので、今、全力で準備してます。病院や施設やベッドも増やします。だから、しばらく待ってください。その間、なるべく広げないようにしましょう」と専門家が潔く国民に説明すべきだったんです。

テリー なんで言わなかったんですか。検査をして、感染者が増えるとマズかったんですか。

岡田 それはわかりません。でも、そのうちに水面下で感染が広がって、何波も流行が来て、何度も緊急事態宣言を出すことになってしまった。日本の新型コロナの死者数は東日本大震災で亡くなった方の数を超えて、1万8000人以上ですよ。経済的な打撃もひどいですよね。

テリー ひどいですよ。僕は知り合いに飲食店の方がたくさんいるんですけど、潰れてるところがほんとに多いですね。

岡田 あとはメンタルですよね。国民の気持ちが沈むじゃないですか。これって、もしかしたらすごく大きいことかなって思います。

テリー ワクチンの接種はどうしてあんなに遅くなったんですか。僕は前期高齢者ですけど、打てることになったのが2021年の7月だったんですよ。それもなかなか予約ができなくて、結局、大型接種会場まで打ちに行ったんです。

岡田 テリーさんと初めてお会いした頃、まだ私は感染研にいたんですけど、よく言ってたのは「国産のワクチンメーカーを守ろう」ってことだったんですね。「守ろう、育てよう」と。

テリー というと?

岡田 ワクチンは国防であると。パンデミックになった時に、やはりワクチンを作っている自国が優先なんですよ。その自国が充足していれば輸出してくれるかもしれませんが、そうでなければ後回しになってしまう。だから国産メーカーを守りましょう、国が資金援助をして国産メーカーを育てていきましょうっていう議論をしてたんです。ただ、それもなし崩しになりましたけど。

テリー なんでですか。

岡田 それもやっぱりSARSやMERSが入らないで済んだり、新型インフルエンザが軽微だったことの成功経験からくる楽観視があったのだと思います。それで、政治の危機管理の項目の中で、感染症の順位が下のほうになってしまった。その間に東日本大震災や原発の問題もありましたし。でも、感染症はギリギリのところで大丈夫だったから、ということがあったのかもしれないとは推察します。

テリー 新型コロナに関しては、今もまたオミクロン株が出てきて、まだ収束は先になりそうですか。

岡田 オミクロン株に関しては、ものすごく感染力が強いので、今まで言われたような「3密を避ける」では厳しいでしょうね。1密でも、もしくは密でなくても感染する可能性があると思います。

テリー オミクロン株はあまり重症化しないという話もありますよね。

岡田 ただ、感染力が強いということは広がるのも早くて、一度に多くの感染者が出るということなんですよ。そうなった時に医療はもちますか。職場で3割の人が休んだら仕事は回りますかと。例えばトラックの運転手さんの1割が病欠したら、スーパーやコンビニに物が届くだろうか、とか。そう考えると、重症化率が低いから大丈夫という話ではないんですよ。そういうことも考えて対策を立てるのが政治だし、分科会の役目なんですけどね。

*テリー伊藤対談(4)へつづく

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