新庄監督を名将にする「ノムラ式」教育理論(3)人種差別を受けた経験から

 ところで、先の会見で新庄監督は「プロ野球改革」について質問され、

「ヒットを打たなくても点は取れるんだぞ」

 と、ノーヒットで得点する作戦を球界に発信することを公言。その真意を、元日本ハムヘッドコーチの白井一幸氏が代弁する。

「四球や一塁までの全力疾走で相手のミスを誘って出塁するなど、方法はいくらでもあります。現に新庄が引退した翌07年の日本ハムは、リーグ最下位の得点数で優勝しました。しかし当面は、指導経験のない新米監督の発信する作戦です。監督の意図を理解して、選手たちに伝わる言葉で落とし込めるコーチの存在が必要でしょう」

 バックアップ体制の必要はもちろんだが、重要ミッションは他にもある。

「〝アンチ新庄〟対策です。すでに監督発表以来、『どう接したらいいのかわからない』と戸惑いを隠せない選手もいます。監督が代われば、レギュラーだった選手が干されるのも球界の常。『レギュラーは1人も決まっていません』と断言していたのだから、なおさらです。不満分子は必ず現れますからね」(スポーツ紙デスク)

 とはいえ、不平不満を漏らすことさえ許されないかもしれない。

「会見でも『人の悪口を言わない』と、人間教育の徹底を熱っぽく語っていました。その根底にあるのは、大リーグ時代に受けた人種差別でしょう。01年オフに移籍したジャイアンツでは白人選手からの、有色人種への差別が激しかった。結果、バリー・ボンズとは昵懇の仲になりましたが、ノムラの教えを守る新庄監督は、野球選手である前に人としての道を説きますよ」(球界OB)

 日本ハムでは、円陣の声出しでの人種差別問題が取り沙汰されたばかり。それだけに、新庄監督のモラル教育に期待は高まるばかりだ。

「新庄監督の人間教育で育った代表格は、森本稀哲氏(40)でしょう。入団当初は、打撃のアドバイスをくれるコーチに悪態をつくこともしばしばだったといいます。それを『間違っている』と生活から指導していったんです。その上で、地味な外野手としてくすぶっていた森本氏に『色を出したほうがいい』とアドバイス。『緑』をトレードマークとする、ファンに支持されるプレーヤーに生まれ変わらせた」(スポーツ紙デスク)

 ついに始動した新庄の育成プロジェクト。根気強く見守り、ムード作りで乗せる手法も過去に証明済みだ。名将に駆け上がっていく期待感が止まらない。

*「週刊アサヒ芸能」11月18日号より

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