31日投開票の衆院選も残りわずかだが、それに先立つこと1週間の24日に投開票が行われたのが、山口県と静岡県の参院補欠選挙。山口県は自民王国であり、今やキングメーカーとなった安倍晋三・元首相のおひざ元ということで自民の前職が難なく勝利して議席を維持した。一方、静岡県では自民が推す候補と立憲民主、国民民主が推す候補による新人対決となって予断を許さない状況となっていたが、蓋を開けてみれば立民・国民が推す候補が競り勝った。
「この2つの選挙は衆院選の勝敗を占う上で重要なのは言うまでもなく、岸田首相で勝てるのかを問うものでした。ところがおおよそ65万票対60万票と5万票近い差がついた。衆院選が後半戦へと折り返した10月25日段階でのNHKによる世論調査では、内閣支持率はほんのわずか上向いたものの自民党の支持率は低下していて、野党共闘の前に自民はかなり苦戦模様。暗雲が漂っています」(全国紙記者)
だがこの選挙、官邸や自民党と同様あるいはそれ以上に固唾を飲んで結果を注視していたのはJR東海だろう。JR東海と静岡県の川勝平太・県知事がリニア中央新幹線のトンネル工事から溢れる「水問題」を巡って対立、開通の見込みが立たなくなっているのは知られるところ。そして今回の選挙は完全に“リニア代理戦争”の様相をていしていたからだ。
「今回、県議から転じて当選した山崎真之輔氏は県議時代にこの『水問題』に取り組んでいた人。だから川勝知事も山崎氏のことを『最も敬愛する弟分のしんちゃん』と呼んで、県知事としては異例の力の入れ方で支援しました。片や落選した前御殿場市長の若林洋平氏には岸田首相が2度も静岡県入りする力の入れようでしたが、結果は川勝知事の返り討ちにあったことで一気に政局になりつつあります」(前出・記者)
加えてこの選挙区はもともとは自民の岩井茂樹氏が議席を占めていた。ところが今年6月にあった静岡県知事選に「打倒、川勝」で自民はこの岩井氏を送り込み、やはり返り討ちにあっていた。だから自民対川勝の争いで自民からは元参院議員と元市長という2人の浪人を生んだことになる。
川勝知事としては「水問題」で改めて県民の理解を得た形になるわけだが、当の大井川の「水問題」では、9月26日に行われた国交省の有識者会議では科学的に問題はないとされた。すると静岡県は、「(JR東海が)経済的発展の視点に偏りすぎ」との文章を10月18日に国交省に送ったのだが、文面からすれば半ば難癖を付けているとも言えなくもない。本来なら注目されるべき今回の参院選の投票率も前回に比べて約5%も低下していて、県民ももうだいぶ呆れているのかもしれない。
(猫間滋)