静岡・川勝知事がリニア開通に「反対理由ない」“態度急変”した理由とは

 あれだけ猛反対していたのに態度急変、ずいぶんと軟化したものだ。

 静岡県が大井川の「水問題」で反対していたリニア中央新幹線に関して、静岡県の川勝平太知事は沿線9都府県で構成される「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」への加入を申請、6月2日に開催された中部知事会議の場で、同盟会会長の大村秀章愛知県知事に申請書を手渡したのだ。

 加えて前日の1日には川勝知事は、リニアの車両基地の建設が進む岐阜県中津川市を訪れ、中津川市長に「開通に反対する理由はない」と話したと伝えられていた。どうやら事態は大きく進展したようだ。

「態度が急変したのは、4月にJR東海が2つの代案を示したことです。1つはトンネル工事で山梨県側に流れ出た水をポンプで汲み上げて大井川に戻すというもの。もう1つは、東京電力が発電用に大井川から取水している水を大井川に戻すというもの。川勝知事はこの水の『全量戻し』の代案に当初は『論外』としていましたが、すぐに『極めて朗報』と急に語気が和らぎました。特に東電案では、トンネル工事とは関係ないところから水を戻すのは『乱暴』としながら、心の中ではニンマリとしている様子が窺えます」(経済ジャーナリスト)

 というのも、大井川に30近くあるダムの最も上流にある田代ダムで東京電力は大井川から取水して水力発電に使っているのだが、このダムの取水によって大井川の水量が減少することに危機感を抱いていたのは今に始まった話ではないからだ。05年には国と東電の間で30年に1度の水の利用に関する更新の話し合いが行われたのだが、地元自治体の要望と東電の意見は対立。当時の石川嘉延知事が話し合いの場に乗り出してようやく地元の要望に近い形でまとまった経緯があった。

 だから今回の東電案は、川勝知事が言うようにトンエル工事と関係ない東電が出てくるのだから理屈としては「乱暴」なのだが、もともと水が抜かれているところから戻ってくるわけだから、静岡県にとっては「極めて朗報」ともなる。トンネル工事で水は失われるのだが、結局は全量が返ってくるのだから、肉を切らせて骨を断つ結果とも言えるのだ。

 そこで急転、静岡県はリニア開通に前向きな姿勢に転じたわけだが、川勝知事とJR東海の因縁を知る人から見ると、そこに理屈を超えた“執念”とでもいったものの存在が感じられるそうで‥‥。

「直前の5月25日に、JR東海の葛西敬之名誉会長が亡くなりました。葛西さんは国鉄を解体して現在のJR各社に分けたいわゆる『国鉄民営化』を国鉄内から推し進めた『国鉄改革三銃士』の唯一の生き残りでした。以来、葛西さんはJR東海トップに君臨し続けましたが、最後の宿願がリニア開通だった。ところが静岡県の反対で進まない状況に陥ると、昨年末から健康不安説が流れる中、2月発売の『文藝春秋』の〈リニアはなぜ必要なのか〉という鼎談企画に登場。1月末にはテレビ朝日系列で池上彰特番のリニア関連番組を放送。これらは明らかにJR東海が仕掛けたものだと思われますが、御大自らの登場に関係者は驚くとともに、強い執念を感じたものでした」(経済誌記者)

 その葛西氏は親米保守の立場でも政治に関わり、安倍政権で国家公安委員会委員や教育再生会議の有識者メンバーも務め、財界の安倍応援団の筆頭格だった。そして実はこの教育再生会議では川勝知事と机を並べた仲で、2019年には共著とも言える本をJR東海系の出版社から上梓したこともあった。

 だから、もちろん静岡県の軟化は条件闘争の結果だが、そこには恩讐を超えた当事者同士の思いというものも、あるのかもしれない。

(猫間滋)

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