B 事実、日本でも中国由来の武漢株から英国由来のアルファ株、そしてインド由来のデルタ株へと、変異株への置き換わりが起こりました。そして置き換わりのたびに、変異ウイルスの感染力、発症力、重症化力は増しています。したがって近い将来、出現が確実視されているエスケープ株の脅威は、間違いなく現在のデルタ株を上回るものになります。というか、エスケープ株は従来株を圧倒する力を持っているから、置き換わりが起こるわけです。
─南米諸国でまん延し始めているペルー由来のラムダ株がエスケープ株である可能性については?
C ブラジル由来のガンマ株や南アフリカ由来のベータ株なども含めて、現時点では各種の変異株が拮抗状態にあると考えられます。今後、ラムダ株がデルタ株をも押しのけて世界を席捲するような事態になれば、ラムダ株はエスケープ株だったということになりますが、現時点ではなんとも言えません。ただ、個人的には「近い将来、これまでにない全く新しい変異株が突如出現して、それが恐怖のエスケープ株として地球上を席捲していく」という危機感を持っています。
A いずれにせよ、そのようなエスケープ株が出現すれば、C先生が先におっしゃった「全てはご破算」「イチからやり直し」ということになります。新たなワクチンの完成を待つ間、爆発的な感染拡大が起こり、医療崩壊を招いて多数の死者が出る。国の対策は後手に回り、ワクチンの供給も遅れて‥‥という、どこかで見た光景が再び繰り返されるのではないでしょうか。医療現場を預かる身としては、二度と目にしたくない光景ですが。
B しかも問題となるのは「次のエスケープ株」だけではありません。次のエスケープ株の後には「次の次のエスケープ株」、さらには「次の次の次のエスケープ株」が待ち構えています。そして、このようなエスケープ株の連鎖、変異株のジャンプアップが起こるたびに「全てはご破算」「イチからやり直し」ということになるのです。
─出口なし、ですね。
A ただ、明るい見通しが全くないというわけではありません。私の臨床経験で言えば、例えば新たに承認された抗体カクテル療法は、デルタ株の重症化予防にはよく効きます。また、デルタ株については、抗ウイルス薬や抗炎症薬などを駆使した「重症化させないための治療法」「死亡させないための治療法」も確立されつつあります。今後、新たな治療薬が開発され、新たな治療法が確立されれば、エスケープ株の脅威を対症療法的に乗り越えることは不可能ではありません。
B 公衆衛生学の立場から言えば、個人でできることもたくさんあります。基本は「感染しない」「感染させない」ための行動を徹底することです。さらに「感染しても重症化させない」ための努力も大切です。その場合、健康や体調の維持に努める、基礎疾患があれば改善に努める、免疫力を低下させない、といったあたりがキモになるでしょう。
A=感染症専門医/B=公衆衛生学の専門家/C=ウイルス学の研究者/D=政府関係者
*「週刊アサヒ芸能」8月26日号より