─そんな中、国は来年に向け、3回目のワクチン接種を検討し始めています。
B ワクチン接種後、次第に低下していくウイルス抗体価を回復させるブースター接種を行えば、確かに被接種者自身の発症と重症化の予防には一定の効果が見込めますが、ブレイクスルー感染と再感染者による感染拡大を防ぐことができないのは今と同じ。つまり、3回目、4回目、5回目とブースター接種を重ねたとしても、ワクチン接種者の3分の2にあたる再感染者が感染を広げ続けていくことになるのです。
A 多くの国民が誤解していることですが、新型コロナの感染と発症と重症化は別物です。新型コロナワクチンは発症予防と重症化予防には相応の効果がありますが、B先生が指摘されたように、再感染も含めた感染予防効果は限定的です。テレビなどでは「ワクチンの有効性」という言葉がよく使われていますが、この場合の有効性は主に発症予防や重症化予防に対するものであって、感染予防に対する有効性を意味しているわけではありません。
─やはりデルタ株による第5波を終息させる手はないということですか。
D 国が想定していた集団免疫シナリオは「ワクチンを接種した人は再感染しないこと」と「ワクチンを接種した人は他人にうつさないこと」が前提でした。その2つが消滅してしまったわけですから、危機的かつ絶望的です。菅総理は今、「この際、死者が出続けるのは仕方がない。とにかくその場しぎの策で時間稼ぎをしながら、国民全員のワクチン接種が完了するのを待つしかない」という心境ではないでしょうか。
C 確かにワクチンには相応の発症予防効果と重症化予防効果がありますから、国民全員のワクチン接種が完了すれば、あるいは国民全員が感染してしまえば、その間に大量の死者は出るものの、集団免疫効果で終息に向かう可能性はあります。ただしこのシナリオにもまた、ウイルス学の常識から見て、決定的な見落としが潜んでいます。
─見落としとは?
C 感染予防、発症予防、重症化予防など、あらゆる点で既存ワクチンの防御機能をすり抜けてしまう新たな変異株、いわゆる「エスケープ株」の存在が見落とされているのです。エスケープ株はワクチンの防御機能だけでなく、感染で得た免疫防御機能もすり抜けてしまいますから、現在のデルタ株がエスケープ株に置き換われば「全てはご破算」「イチからやり直し」ということになります。
A 実はつい最近、米CDCも「あとほんの数回の突然変異によって、今あるワクチンから逃れる危険なエスケープ株が出現する」旨の警告を発しました。ウイルス学をはじめとして、感染症学や公衆衛生学などに携わる国内外の識者も口を揃えて「近い将来、ワクチン接種や感染によって獲得された免疫防御をすり抜けるエスケープ株が出現することは100%確実」と断言しています。
─確実なのですか。
C 不可避です。新型コロナウイルスは猛烈な勢いで変異を繰り返しています。大半はさして問題のない変異株ですが、その中から偶然的にひとつ、その他の変異株を圧倒する力を持った変異株、すなわちエスケープ株が出現します。感染力も強いエスケープ株は、あっという間に従来株を駆逐していきますが、こうした危険な変異は感染が拡大すればするほど起きやすくなるという傾向もあります。
A=感染症専門医/B=公衆衛生学の専門家/C=ウイルス学の研究者/D=政府関係者
*「週刊アサヒ芸能」8月26日号より。(4)につづく