「スマホ決済」の覇権狙うIT系に対抗!銀行軍団「バンクペイ」の勝算

 4月11日、安倍政権が消費税率の10%引き上げに対する景気対策として進めるキャッシュレス決済のポイント還元制度が公表された。それによれば、2019年10月から20年6月末(オリンピック開催前までの)9カ月間で、中・小規模の小売店・サービス業者・飲食店などで支払いを行った場合、個別店舗については5%、フランチャイズチェーン加盟店などでは2%が消費者に還元されるという。この事業には約2800億円が投入される大規模なものだ。では、関係各者の思惑はどういったところにあるのか。

 まずはこれを進める政府側だが、名目としては消費税率引き上げの負担増をポイント還元で緩和して景気対策を図るというのがまず前提としてある。そしてこれを機に一気にキャッシュレス社会を進めようとしている。

 その理由として、①オリンピック対策、②現金を扱うハンドリングコストの削減、③犯罪抑止、④脱税防止の4点が考えられるという。

「世界各国でどれだけキャッシュレスが浸透しているかといえば、アメリカが45%、中国60%、韓国90%で日本は18.4%と、日本は圧倒的にキャッシュレス後進国。そんなままでオリンピックが開催され、大量の外国人が日本を訪れたらどうなるか。これをどうにかしなければならない。だから政府が打ち出す『日本再興戦略』の中でも、観光立国実現のために、外国人が訪れる商業・宿泊施設、観光スポットでのキャッシュレス決済の促進が強く謳われています」(経済ジャーナリスト)

 次に日本国内では年間110兆円の現金が流通するとされるが、その扱い(ハンドリング)コストを削減したいとの狙いがある。年間の紙幣発行コストでも517億円がかかっている。また現金によるやり取りは“足がつきにくい”ので、ロンダリングや麻薬や売春のようなアングラマネーの取引に使われやすいことになる。これを一掃したいとの狙いもあるという。

 そして同じ理由として、電子決済では金の流れが記録に残るので、脱税対策にもなる。キャッシュレス化は税の徴収にも便利なのだ。

 次に、キャッシュレス決済に関わる事業者にも様々な思惑が渦巻いている。

「政府は25年までにキャッシュレス化を40%まで進める目標ですが、家計最終消費支出の40%が電子決済で支払われ、その決済手数料を3%とすれば、その金額は2兆8500億円、つまり、それだけ巨大な市場がこれから築かれようとしていることになります。さらに社会全体のキャッシュレス化が加速すれば、それだけ単純にマーケットも拡大する。そこで、この大きな市場で先行すべく、事業各社の間でつばぜり合いが繰り広げられているのです。さらに、市場をリードすればお客の買い物情報のビッグデータが入手できます。これをAIで分析し、企業のマーケティングに活用したいというわけです」(同前)

 だからヤフーとソフトバンクが組んだQRコード決済の「PayPay」が普及前から「100億円還元」を謳ったテレビCMをガンガン流す理由もそこにある。新たな市場だけに先行者利益が見込め、顧客の囲い込みを行うことで、キャッシュレス化ビジネスの覇権を握ろうとの狙いだ。
 
 例えばキャッシュレスで先行する中国でも、サービス開始3年ほどでアリババグループとテンセントの2つの決済アプリに収れんしている。

 また、ひとえにキャッシュレス決済といっても、「PayPay」や「LINE Pay」のようなQRコード決済、スマホをかざす「Apple Pay」や「Google Pay」のような非接触型モバイル決済、クレジットカードやデビットカードのような読み取り型の決済がある。様々な住み分けが行われるだろうが、ここでも覇権争いのつばぜり合いが行われている。やはり「PayPay」の「100億円還元」がそうだし、対する非接触型の「Google Pay」のグーグルでは検索サービス、電子メール、携帯電話のOSを無料提供し、売り上げ12兆円のうち86%を広告収入が占めるとされるが、その戦略は同様だ。

 ところでこれらの電子決済サービスで目立つのはIT企業の動きだ。焦っているのは銀行サイド。そこで4月22日、メガバンクや地方銀行1000行以上が対応する新たなスマホ決済サービスの「Bank Pay」が2019年秋に開始されると公表された。全国の銀行とクレジット会社などが協業し、店舗は1つの金融機関と契約すれば、対応する1000以上の銀行と決済が行えるという。

「お金を取り扱うのが本業の銀行ですが、一部の資金量のあるIT企業がキャッシュレス化で先行するのに銀行としてどう対応するかには頭を悩ませていました。銀行各行でも個別の取り組みは行っていましたが、今回はオール銀行業界でこれに対抗していこうとの必死さが伺えます」(同前)

 仁義なきキャッシュレス決済商戦はこれからさらに本格化しそうだ。

(猫間滋)

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