初代仮面ライダーをスタントマンなしで演じ、今も強靱な肉体を誇る藤岡弘、(74)。6歳から始めた武道を基礎にした体の鍛え方も、余人とは違ったはずだ。健康の秘訣を尋ねると「特別なことはやっていない」と笑いつつ、心身ともに充実させる生活の実態を語り出した。
——現在も日々の鍛錬が基本ですか。
藤岡 今でも犬を連れて走ったり、木刀や真剣を振ったりしますが、無理のないトレーニングですよ。確かに若い頃は、体を壊すほど激しく鍛え上げた記憶がある。
——体を壊すほど‥‥。
藤岡 毎朝4キロ走ってから柔軟、腕立て、腹筋。真剣を振って、柔道の形を繰り返す。それにプラスしてプール、武道の稽古。時間がある限り挑戦しました。命がけのアクションをやり続けるためには、恐怖心を取り除かなければならないので、安心感、自信を得るまで鍛えた。ところが、捻挫やケガをしてね。やりすぎは失敗だということを学びました。
いまだに体はよく動かしますが、筋肉より関節を絶えず柔らかくすることを意識している。風呂に入っても、あらゆる関節を揉んだり、肩を回したりが、クセになっています。武道は柔軟性が大事なんですよ。
——肉体を作り上げる食べ物についても、こだわりが強いのでしょうね。
藤岡 水はよく飲みますね。水道水ではなく、浄化した水を1日2~3リットルぐらいかな。豆乳やナッツのような木の実もよく摂ります。イワシ、サンマ、アジ、サバといった青い魚も好きですね。とはいえ、魚もあれば肉もある。体が要求してくれば、350グラムのステーキをペロリと食べることだってあります。
——バランスよく何でも。
藤岡 納豆に梅干し、みそにもこだわりはあります。みそは、おばあちゃんが送ってくれた田舎みそで、麹で作った「食べみそ」です。野菜に付けてもいいし、熱々ごはんにも合う。むろん、ごはんも玄米や黒米、赤米などを入れた雑穀ごはんになります。ついでに、山芋も好きだな。
——健康食のオンパレードですね。
藤岡 いい空気も吸いたい。朝起きたら深呼吸。吐いて吸って、吐いて吸って。時間があれば、気がついた時に繰り返します。まあ、結果的に健康に気を遣っていることになりますが、中でもいちばん大事なことがあります。
——それって?
藤岡 心の持ち方、いつでも平常心でいることです。だから、よく座禅を組みます。炭の火の音がパチパチと響くだけの囲炉裏部屋で、無音の時間を過ごすと、オンとオフの切り替えがはっきりして体も解放されるんです。そして、真剣で居合斬りをして精神を引き締めます。
——心と体は連動している、と。
藤岡 心に安心感を与えるんです。新聞は毎日、全紙に目を通し、情報誌も駆使して国内外の情報を仕入れます。必要なところは切り抜き、ラインを引いてファイルにする。何十年にもわたって作成したファイルは、何十冊にもなります。不安要素を少しでも取り除いていく。結果、ストレスから遠ざかるのです。僕は大病を患ったことがありません。たまに風邪をひいたって、治りは早い。新陳代謝がいいんでしょう。
——話が際限なく広がっていきますが、世界各地を巡ってきたボランティア活動も、健康を考えるうえで役立ってきたとか。
藤岡 はい、その通りです。仮面ライダーを演じていた頃から、日本で孤児施設などを回っていたのですが、世界の現実を見るために、その枠を広げたんです。紛争地で人間の生死に触れ、死体を担いだことだってあった。そこで使命や責任に気づかされ、知識や実体験で得たことが今、健康であることの一助になっていると思います。
——リスクの高い渡航までもが健康に繋がっているとは驚きですが。
藤岡 各地でマラリアの危険性、下痢や高熱との戦いがあります。水を1杯飲んだだけでお腹がピーピーゴロゴロ。ところが、海外で同じ物を食べているのに、僕は何ともなくて、周りがバタバタと倒れていったことがある。そんなケースはけっこうありますよ。世界中の菌を食べて戦ってきたおかげで、免疫力が強くなったのでしょう。ある医師からは「君の血清取ったら、いい抗菌血清ができるんじゃないか」って冗談で言われましたよ(笑)。
※「週刊アサヒ芸能」2月25日号より