富士の樹海など、潜入ルポを得意とするライター兼イラストレーターの村田らむ氏は韓国にたびたび足を運んでいる。ソウルで見かけたのは異様なフォルムの建物だった。まるで津波のような形状をして、今にも古い建物を飲み込もうとしている。そこで聞いた“怖い噂”とは?
韓国の首都ソウル特別市の中心にある、ソウル市庁舎はとても特殊な見た目をしている。
まるで打ち寄せる津波のような形状なのだ。新宿区にある、東京都庁舎と比べると違いは歴然だ。
津波と言えば“打ち寄せるもの”と相場が決まっているが、ソウル市庁舎の津波も例外ではなく真正面の建物に襲いかかっているように見える。
ソウル市庁舎の前に建つのは、大日本帝国が1926年に建てた旧市庁舎だ。現在は図書館として機能している。「憎き日帝が建てた建物」という認識だったから当然、「打ち壊して、新しい市庁舎を建てるべし」という声が優勢だった。だが、文化財庁が文化遺産として保存することに決めた。文化財を破壊するのは罪になるため、市は強引に工事を進めることはできなくなった。結局、旧市庁舎の真後ろに新しい市庁舎を建てることで妥協することになった。
旧市庁舎を物理的に破壊するという事ができなくなったから、代わりに精神的に破壊することにしたのだろうか。津波で旧市庁舎を飲み込むような形のデザインになった。正式に発表されているわけではないが、どう見たって植民地時代の屈辱を津波で流してしまおうという気持ちが見て取れる。
ちなみにこの新市庁舎が建てられたのは2012年で、東日本大震災の翌年であるため、
「日本が津波の被害にあったのをあざ笑うために建てたに違いない。不謹慎だ!!」
という声が上がったが、デザインができたのは、地震よりずっと前だったそうだ。逆に言えば、地震の起こる前から「津波で流してやる!!」と思っていたということになる。
日本人から見たら、
「そんなに露骨なデザインにするくらい憎いんだなあ」
と少々引いてしまうが、ただ韓国国内でも決して評判が良いわけではないそうだ。
「新旧の建物が調和せず、景観としてバランスが取れていない」
という声が多いようだ。実際、現地に行ってみるとかなり強い違和感を覚えた。だが地元の人はすっかりなれているようで、新市庁舎の展示会も、旧市庁舎の図書館も、新旧市庁舎の前にあるソウル広場も楽しそうに利用していた。
現在は新型コロナウイルスで簡単には遊びに行けず、近くて遠い国になっているが、収まった折には足を運んでみてはいかがだろうか?
(写真・文/村田らむ)