Clubhouseが中国にもたらした「ネット史に残る瞬間」とその結末

 電気自動車のテスラのトップのイーロン・マスク氏やフェイスブックの創設者ザッカーバーグ氏ら有名起業家や芸能人、セレブなどがいち早くやっていると何かと話題のアメリカ発の音声SNSサービス「Clubhouse(クラブハウス)」。既に多くの人がやっていて、ネットでは「やっている有名人リスト」などが出回り、とにかく話題沸騰なのだが、じゃあ、あの国はどうなのか?世界基準とは異なったスマホアプリの規制がまかり通る中国での事情だ。

「2月7日までの時点で中国国内でのクラブハウスのユーザーは続々と増え、一時は中国版ツイッターの微博(ウェイボー)で『(中国の)インターネット史に残るこの瞬間を決して忘れることはないだろう』との書き込みが残ったほどです。というのも、中国国内では今、虐待が問題視されている新疆ウイグル自治区の収容所施設や台湾の独立、香港の国家安全維持法などの政治的に微妙な問題はネット上での発言は検閲対象のタブーとして語ることが不可能な状況にある一方、新メディアのクラブハウスではそれらの話題について語るのが可能な状況にあったからです。だから『ネット史に残る瞬間』だったわけですが、やはりそんな自由も長くは続きませんでした」(ネット事情に詳しいジャーナリスト)

 というのも2月8日の夜に突如オフラインになって中国国内ではつながらなくなったからだ。

 もともとクラブハウスはアップルのOSの「iOS」を使った端末でしか使えない上、そのアップルのアプリ販売サイトである「アップルストア」は中国国内では使用不可能であるため、利用者は限られていた。だからクラブハウスに特有の数少ない「招待枠」も、先進的な「ネット民」の間で高値だと8000円程度で電子商取引サイトで売買されていた。そうして得ていたかりそめの自由も、ほんの一瞬で終わってしまったようだ。

「中国のネット環境は大規模検閲システムと200万人とも言われるネットサイバーポリスの監視・検閲からなるグレート・ファイアウォールによって規制されているので、それがクラブハウスにまで及んだのだと見られています。クラブハウスは、音声のやり取りのみで、録音も禁止という機密性がウリだったので、タブーな話題についても自由な会話ができていたのですが…。まあ、そのうち検閲がかかって使えなくなるだろうというのは大方の予想通りではありました」(前出・ジャーナリスト)

 ただ中国当局はこのことについて何も語っていない。都合の良くないことは無かったことにするのがいつものことなので、当たり前と言えば当たり前なのだが。

 前述の中国版ツイッターのウェイボーではクラブハウスが使えなくなったことについて、「クラブハウスがブロックされた」とのハッシュタグ付き発言が、10万人規模で投稿されたものの、この投稿すら見ることができなくなったという。臭いものにはフタ、というお国柄がまた際立った一件となった。

(猫間滋)

ライフ