70代女性からカードを盗んで…特殊詐欺で裁かれた元格闘家の呆れた言い訳

 親族が起こした事件や事故、架空請求、銀行口座の不正使用などなど、あらゆる口実をネタに高額の金をだまし取る特殊詐欺。警視庁の資料によれば、昨年1年間の被害総額は約277.8億円。この日、東京地裁の法廷に姿を見せた“実行犯”の呆れた言い訳とは? お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火がリポートする。

 テレビ番組にも出演していた元格闘家の男が特殊詐欺に関わった事件の裁判が東京地裁で行われました。

 被告人は20代無職の男性。罪名は、窃盗。

 起訴されたのは2019年9月に東京都内に住む70代の女性からキャッシュカードを盗み、そのキャッシュカードでお金を引き出したという内容。これ以外にも同様の4件の事件で起訴されていました。

 被告人はツイッターで裏バイトの募集を見つけ応募。それが本件の特殊詐欺に加担する内容だったとのこと。詐欺グループの他のメンバーが高齢者に電話を掛け、被告人は被害者宅を訪れてキャッシュカードを受け取る「受け子」とATMでお金を下ろす「出し子」を担当していたという。

 そして被告人質問です。まずは弁護人から。

弁護人「あなたは高校に進学せずにガソリンスタンドに就職したと。それで格闘技を始めたって話だけどきっかけは?」

被告人「弱気な性格を治したくてです」

 もともとはコンプレックス克服のためにスタートした格闘家。被告人はその後上京し、格闘家とし活躍する傍らアルバイトの日々だったらしい。

弁護人「あなたは2年前まで都内の総合格闘技のジムでインストラクターをやってましたよね?なぜ辞めたんですか?」

被告人「格闘家として稼げなかったのと、実家にいる妹の面倒を見なきゃいけなくなったので」

弁護人「その頃に共犯者が逮捕されて実家の方に逃げたってのもあるんですか?」

被告人「それも理由のひとつではあります」

 実家のある東北の方で逃亡生活をしていたようです。

弁護人「詐欺グループからの指示で動いてたんですよね。直接会うことはありましたか?」

被告人「いいえ。電話でコバヤシと名乗る女性からの指示で動いてたので顔は知りません」

 他に何人いるのかもわかってなかったみたいです。何も知らされずに手伝わされるのが特殊詐欺ですからね。それにしても指示役が女性ってのは珍しいパターン。

 続いて検察官からの質問です。

検察官「犯行の動機はお金が欲しかったからですか?」

被告人「はい。明日のメシも食べられるかわからない状況で…」

検察官「トータルで報酬はいくら貰ったんですか?」

被告人「約50万くらいだと思います」

 報酬は引き出したお金の10%だったらしく、被害総額は500万円の特殊詐欺だったようです。

 最後は裁判官から。

裁判官「今日法廷にお母さん、もしくはお兄さんが来ていない理由は何ですか?」

被告人「2人とも仕事が忙しいということで」

裁判官「情状証人として法廷に立って欲しいとお願いはしたんですか?」

被告人「はい」

 するとここで衝撃的な質問です。

裁判官「証拠によるとあなたのお兄さん、特殊詐欺に関与して裁判まで受けてるんですね。自分が特殊詐欺に関わる時、何も思わなかった?」

 グループは別だろうけど、詐欺で逮捕経験がある兄弟のようです。

被告人「バレなきゃいいやと思ってて。軽率でした」

 と述べたところで被告人質問終了。

 この後、検察官が懲役3年6月を求刑して閉廷でした。

 ツイッターで怪しげな募集に連絡するって普通は出来ないことでしょ。悪い方向にだけど強い意思が必要なわけで。もし被告人が格闘技を志さずに気弱なままだったらどうなってだだろうなぁと。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。

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