もし成功すれば、現在の野球スタイルに一石を投じることになるだろう。
阪神のブルペン一番乗りは、藤浪晋太郎投手だった。キャンプイン直前の1月29日に始まった合同自主トレで、藤浪はキャッチボールと遠投で肩を温めると、そのままブルペンへ。捕手を座らせ、約50球を投げ込んだが、うち36球はワインドアップだった。
「藤浪は契約更改後、プロ1年目までのワインドアップ投法に戻すことを示唆していました。大阪桐蔭時代のダイナミックなピッチングが蘇ればいいのですが…」(在阪記者)
近年の藤浪は走者の有無に関係なく、セットポジションで投げ込んでいた。それ以前に、大きく振りかぶるワインドアップ投法で投げる投手は、プロの世界ではめっきり見掛けなくなった。体を大きく動かす分、相手チームにクセを見抜かれる隙を作り、ボールの握りの位置などから対戦打者に球種のヒントを与えてしまうリスクもある。
「走者のいない場面でもセットポジションで投げるのが当たり前になってきました。セットポジションからクイックモーションを使い、足を上げるスピードを変えるなどし、バッターのタイミングをずらす技術も定着しています」(前出・在阪記者)
藤浪があえて、時流に逆行するようなワインドアップ投法に戻そうとした理由は、ストレートの威力を上げるため。たしかに、昨季中盤、1イニングしか投げない中継ぎで登板していたときの藤浪は、160キロ超えを連発させていた。「真っ直ぐが来る」とわかっていても、対戦打者は打てなかった。
大きなフォームから繰り出す全力投球が“完全復活”の近道と判断したようだ。また、ワインドアップ投法について、こんな指摘も聞かれた。
「昨季、田中将大がワインドアップ投法に戻しました。でも、ポストシーズンマッチでは振りかぶらないノーワインドアップ投法に戻していました。楽天に帰還した今季、ワインドアップ投法にもう一度戻すと聞いていますが」(球界関係者)
田中が勝ち続ければ、藤浪の着眼点も間違っていなかったと解釈されるだろう。田中がワインドアップに戻した理由として、「直球の威力が従来ほどではなくなった」と指摘する声もあるが、何も直球で押しまくるピッチングを目指しているわけではないだろう。得意球のスプリットを活かすための手段と考えたほうがよさそうだ。
だが、田中と藤浪がワインドアップ投法で成功すれば、他の投手も参考にするかもしれない。となれば、「これぞ力と力の勝負」という対戦を見る機会は増えるだろう。“絶滅危惧種”とまで揶揄されたワインドアップ投法の復権が日本球界にどんな化学反応をもたらすか、注目したい。まあ、阪神・矢野燿大監督はちょっと心配そうだが…。
(スポーツライター・飯山満)