世界の福本豊〈プロ野球“足攻爆談!”〉「足を踏んだ丸は惨敗巨人の象徴」

 盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!

 日本シリーズは予想どおり、ソフトバンクが巨人に圧勝した。菅野以外には負けないと思っていたけど、2年連続の4連勝は内容的にも完勝やった。投手陣が力でねじ伏せて4試合でわずか4失点。打線のほうは4試合で7本塁打で計26点と破壊力の差を見せつけた。でも、数字には表れないプレーの質が違いすぎる。初戦で物議を醸した丸の走塁も、僕に言わしたらただ単に技術のなさが引き起こしただけのこと。

 問題の場面は、初戦の4回無死一、二塁。遊ゴロ併殺打に倒れた丸が一塁を駆け抜けた際、左足が一塁ベースの角を踏んでいた中村晃の左足に接触した。中村晃が痛がり、それを見た千賀が心配して声を出し、トレーナーもベンチを飛び出した。ネット上では「わざと蹴ったのでは」と話題になったが、ダルビッシュもツイッターで「モラル的な話というより技術的な話」と言及していた。確かにダルビッシュの言うとおり、わざと蹴ってはいない。でも、一歩間違えれば、大ケガにつながる可能性があっただけに、丸は反省しないといけない。

 一塁を駆け抜ける際の基本は左足でベースを踏むこと。右足で踏むから、ああいう接触が起きてしまう。04年のアテネ五輪で、谷が一塁で転倒してケガしたのも、右足で踏んだのが原因。2年前に大谷が右足をひねったのもそう。左足で踏んだら、ひねることはない。

 僕らの時は高校から教えられた基本やけど、今はプロでもいいかげんになっている。ほんまはベースランニングの練習でコーチがしっかり教えないといけない。「歩幅が合わない時はどうしたらいいですか」と聞かれることもあるけど、なんとなくベースを目標に見て走っていたら自然と歩幅は調節できる。そもそも打者走者は、ファウルラインとその外側に平行に引かれたスリーフットラインの間を走らないといけない。それさえやれば、左足でしか一塁ベースは踏めないようになっている。一塁を駆け抜ける時だけでなく、二塁へ向かう時も左足で踏んで小さく鋭くターンするのが基本。野球がいくら進化しても、そこはおろそかにしてほしくない。

 一塁への全力疾走も、ソフトバンクのほうができている。だけど、この当たり前のことができないチームがほとんど。シーズン前には全力疾走を目標に掲げても、最後まで貫くのは難しい。ソフトバンクはデスパイネやグラシアルの外国人でさえ、凡打でも一生懸命走っている。一塁走者になった時も右前安打でしっかり三塁まで進めているので、一、三塁の理想的な形が作れる。周東のような俊足でなくても、必死に走ったら前の塁を狙うことができるという証明や。こういう野球を見ていると、ヤクルトから移籍したバレンティンが出場できない理由がよくわかる。

 僕らの現役時代はONが引っ張る強い巨人を倒すのがいつも目標やったけど、今は完全にソフトバンクが球界の盟主となった。日本シリーズ12連勝で、あの巨人のV9以来、2チーム目の4年連続日本一。打つ投げるだけでなく、走塁も守備もしっかりしているし、ほんまにスキがない。選手層が厚いから、手を抜いたプレーをしていたら、代わりの選手がいくらでも出てくる。二度と実現しないと思われていたV9も、ソフトバンクならと思ってしまう。このチームを倒すのは並大抵のことではない。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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