ついにトレードに出されたか。10月18日に阪神の江越大賀外野手、齋藤友貴哉投手と日本ハムの渡邉諒内野手、髙濱祐仁内野手の2対2の交換トレードが発表された。江越は肩や足など身体能力は新庄クラスで、打つほうさえよくなれば、阪神でスーパースターになれる可能性が十分にあった。
「もったいない」と、僕も歯がゆさを感じていた選手やった。
2014年のドラフト3位で駒大から入団し、金本も監督時代にその潜在能力にほれ込んでいた。監督就任1年目の16年には積極的にスタメン起用したが、72試合で7本塁打、2割9厘の低打率に終わった。4試合連続ホームランのパンチ力も見せたけど、安定してバットに当たらんことにはどうしようもない。スイングがどうこうというより、タイミングの取り方が下手すぎた。そこさえ直せば打てるはずやったのに、フォームをいじりすぎたから余計におかしくなった。
金本でなくとも「守備と走塁は球界トップクラス。打てるようになれば億を稼げる選手になれる」と思ってしまう。だからこそ、いろんな人がアドバイスを送り、それをまた江越も真面目に聞きすぎた。結果が出ないとコロコロ変えるから、本物のフォームが身につかなかった。極め付きは2017年の秋季キャンプからのスイッチヒッター転向。右で打てないのに、左で打てるわけがない。僕も阪急時代に松永がスイッチヒッターとして成功する過程を見てきたが、両打席で打てるようになるには、生半可な気持ちでは無理。「ちょっと試しに」なんて気持ちで通用するはずがない。案の定、半年ももたず開幕前に左打席を断念することになった。
まだ29歳。日本ハムに移籍して、花開く可能性は十分にある。新庄自身も阪神時代に才能を持て余していた時に野村さんとの出会いがあって、大きく成長した。江越を若い時の自分と同じように見ていると思う。指導者によって選手はガラリと変わるものやから。僕は西本監督に理にかなったスイングを教わり、体で覚えるまで振り続けて、金を稼げるようになった。江越も新庄監督との出会いが転機となる可能性がある。とにかく移籍選手は1年目が勝負。春季キャンプで思い切りアピールして、野球人生で最大のチャンスを生かしてほしい。今年、新庄のもとで1学年下の松本剛が大変身して首位打者を獲得したように、江越が大ブレイクしても驚かない。
1年目が勝負というのは阪神に来る渡邉、髙濱も同じ。阪神は今年、左投手を全く打てなかったから、岡田監督も右で力のある打者が欲しかったはず。特に27歳の渡邉はドラフト1位で入り、栗山監督の時は二塁のレギュラーをつかんでいた選手。阪神の二遊間は中野、小幡、糸原ら左打ちが多いから、定位置をつかむ可能性は十分にある。
ひとつ言えるのは、トレードで出される選手はまだ幸せということ。ソフトバンクで戦力外通告を受けた真砂という外野手も、右の柳田と言われ「ミギータ」の異名で期待されていた選手。オリックスの西村凌は日本シリーズに向けて1軍帯同中にクビとなった。僕が臨時コーチで教えた時から打撃に魅力を感じていた選手で、まだ26歳。パニックになっていると思う。毎年、新人選手が入る分だけ、辞めていく。やっぱり厳しい世界やで。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。