秋風が吹きはじめると、球界は別れの時期となる。福留(中日)、糸井(阪神)、内川(ヤクルト)ら一時代を築いた打者が今季限りでユニホームを脱ぐ決断をした。松田(ソフトバンク)の戦力外のニュースも残念やった。熱男のニックネームでホークスファンから愛された選手で、僕も個人的に応援してきた。39歳でも元気に動けているし、どこかの球団が拾ってくれることを願っている。
昔から球界には格言がある。「選手を殺すには刃物はいらない。ベンチに座らせておけばいい」と。松田もまさにそんな感じとなった。2019年には143試合に出場して、打率2割6分、30本塁打をマーク。そこから年々、出場機会が減ってきて、今年はわずか43試合の出場やった。今季の成績は打率2割4厘、0本塁打。せめて2割5分を上回っていれば、クビを切られることはなかったと思う。
僕も経験があるけど、ベンチに座る時間が長くなると、今まで打てていた球が打てなくなる。体の切れも悪くなるし、目の反応も鈍る。特に速いストレートを打ち返せない。松田はどちらかというと感性で打つタイプやから、余計に立て直しがきかなくなった。若い頃からしっかりした形を覚えていれば、急にガクッとはこないんやけど。
可哀想なのは、ソフトバンク球団の生え抜き選手として初の2000安打にあと169本に迫っていたこと。2年働けば手が届くところにあった。「2000本を目指します」と、常々口にしていれば、球団も残してくれたかもしれん。ただ功労者だからこそ、飼い殺しにはしたくないという判断も理解できる。同じ三塁のポジションでは、沖縄出身の23歳の砂川リチャードが、城島健司の持っていた25本のウエスタン・リーグ最多本塁打記録を破った。周東や野村勇らとのポジション争いは熾烈で、松田の居場所はなくなっていた。2000安打を狙うには他球団でやるしか選択肢はなかった。
選手は誰しも、いつまでも現役を続けたい。福留や糸井は引退会見で「悔いはない」と言っていたけど、そこに至るまでの葛藤は、相当なものがあったはず。「俺はまだ若手に負けていないぞ」という気持ちで、2軍に落ちても手を抜かずに取り組んでいたと思うから。松田も「野球がまだまだ大好きということ。体が元気ということ。大好きな野球を自分から辞める決断には至らなかった」と、他球団での現役続行の理由を明かしている。損得勘定では今辞めたほうがいいとわかっていても、踏ん切りがつかなかったんやろうな。ホークス一筋でユニホームを脱ぐことを決めていれば壮大な引退セレモニーを用意してくれたし、来年以降の働き口も球団が保証してくれたはずやったから。
やると決めたからには、自分自身が納得のいくまで野球をやればいい。ただし、ここから先はイバラの道であることは覚悟しとかないといけない。「そこそこ出場して、完全燃焼できればいい」ぐらいの生半可な気持ちでは、チャンスすら回ってこない。若手と競争して、もう一回レギュラーを奪うという強い気持ちがいる。それも、明らかに力が上ということを示さないといけない。首脳陣は同じ力なら、ベテランより伸びしろのあるほうを使うから。
熱男がどこまで熱くなれるか。あきらめずに名球会を目指してほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。