世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「浅野翔吾は巨人に入ってよかった」

 今夏の甲子園を沸かせた高松商・浅野翔吾は巨人、阪神がドラフト1位で競合し、巨人が交渉権を獲得した。原監督と岡田監督のクジ運の悪い同士の対決。引き当てた原監督があれだけ喜ぶのを久しぶりに見た気がする。走攻守の3拍子そろった次世代のスーパースター候補として、期待の大きさが伝わってきた。

 浅野本人は、どちらがよかったのかな。巨人も阪神も人気のある伝統球団で、いずれにせよ、他の球団のドラフト1位以上に注目されることになる。生涯成績だけで考えると、巨人でよかったのとちゃうかな。東京ドームなら逆方向でもホームランを打てるし、シーズン30発も狙える。でも、大事なのは自分を見失わないこと。強く低いライナー性の打球を打つことを心がけて、ホームランはおまけぐらいの気持ちでいたほうがいい。周囲の声に惑わされることなく、自分のスタイルを見つけてほしい。

 浅野の身長は公称171㌢。一般的に小さい選手は下駄を履かせがちやから正確にはわからない。ドラフト後の会見では「身長が小さいけど。それを言い訳とせず、小さい選手に夢を与えられるような選手になりたい」と語っていた。ほんまにそうなってほしい。小さいけど、体の厚みがごっついし、見るからにパワーがありそう。右の吉田正尚のようなイメージがある。

 正尚も背は低いけど、下半身を使った打撃で力負けしない。浅野も上体だけに頼らず、体全体を使った打撃を磨くべき。それに、小さいことにはメリットもある。相手投手からするとストライクゾーンが狭くなり、低めに集めるのは難しい。だからこそ、高めの球はすくい上げるのではなく、上からしっかり叩けるようにならなアカン。身長169㌢の僕でも通算208本もホームランを打てたんやから、浅野のパワーがあれば心配はない。

 僕のプロ入り前は身長が170センチないと通用しないと言われていた。実際に自分でもそう思っていた。高校生の頃、治療で通っていた病院で、たまたま阪神の吉田義男さんとすれ違ったことがあった。吉田さんも170センチないけど、その時の僕は「でかっ」と大きさに驚いた。背は低くても体の厚みが違っていた。当時細かった僕はプロ野球選手になるという夢は描けず、高校生の頃は甲子園出場、社会人の頃はベストナインに選ばれることだけが目標やった。それが後輩の加藤秀司を見に来た阪急のスカウトに認められ、おまけのような感じでドラフト7位でプロ入りした。

 2年目に75盗塁で盗塁王になると、小さい選手への評価が変わった。その年のドラフトでは同い年の若松がヤクルトに入団。若松も「小さな大打者」と呼ばれて、その後も島田誠(日本ハム)や大石大二郎(近鉄)と160センチ台の選手が続いた。大石には14年連続盗塁王を阻止された形になったけど、僕としては、西本門下生の後継者としてタイトルを譲った気持ちがあった。タイトルを競っていたシーズン終盤に「俺は今年もう走らん。今度はお前が何年も盗塁王を続けろ」と伝えた。

 メジャーでは浅野と同じような体格のアルトゥーベ(アストロズ)が首位打者も獲得したパワフルな打撃で、子供たちに夢を与えている。浅野も巨人のスーパースターになって、小兵選手たちの道を切り開いてほしい。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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