世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「ナカジマジックで仰木時代の再来」

 まさかが起きるから、野球は恐ろしいし、面白い。10月2日のパ・リーグのシーズン最終日に実感させられた。マジック1で足踏みしていたソフトバンクがオリックスに逆転優勝をさらわれた。2試合を残して引き分けでもOKの圧倒的有利な状況を生かせず、1年間の苦労が水の泡となった。試合後に涙を流している選手が多かったけど、藤本監督はしばらくは寝られんぐらい悔しいと思う。

 ソフトバンクにとっては、前日の10月1日の西武戦で優勝を決められなかったのが痛かった。9回に柳田のホームランで追いつき優勝ムードが高まっていたけど、延長11回に西武・山川のサヨナラホームランに沈んだ。打たれた藤井は影のMVPと言ってもいい存在やった。広島をクビになり、独立リーグ経由で育成選手として今年からソフトバンクに加わった苦労人。それまで54試合に投げて、防御率1点台、5勝3セーブ、22ホールドの文句のつけようのない数字を残したが、痛恨のシーズン初黒星となった。あの場面は、捕手が正捕手の甲斐から控え捕手に代わっていたのも影響した。山川に変化球を狙い打ちされて仕留められてしまった。

 翌3日はソフトバンクが千葉でロッテ戦。オリックスが仙台で楽天戦。オリックスは勝って、しかもソフトバンクが負けないといけない条件やった。条件的にはソフトバンクが有利やったけど、絶対に落とせない試合でホークスの選手はガチガチになっていた。藤本監督をはじめ、ベンチも焦っていたと思う。5回無失点の板東を代えて、2点リードの6回から2番手に泉を送り出したところで嫌な予感はあった。もう少し板東を引っ張ってもよかった。泉はいい球を投げるけど、繊細なコントロールは望めない。走者をためての一発だけは避けないといけない場面で、山口に高めの失投をとらえられて逆転3ランを喫した。

 2点を追う8回には一打同点の2死満塁のチャンスを作ったけど、グラシアルが力のない遊ゴロ。直前にど真ん中の変化球を見逃すなど、明らかに硬くなっていた。ほんまは、こういう生きるか死ぬかの試合でこそ頼りになるのが松田やった。今季限りで戦力外を通告され、出場登録を抹消されたままやった。何度も日本一を経験している選手で、試合に出なくても、ベンチに座って声を出しているだけで雰囲気は違っていたはず。百戦錬磨のベテランには打つ、投げる以外の無形の力がある。

 逆転優勝したオリックスは執念としか言いようがない。連覇を狙う今季は一度も優位な展開に立てなかったけど、混パに粘り強く食らいついて、最後にうっちゃった。エースの山本由伸、主砲の吉田正尚がしっかり働いたのが大きかったが、中嶋監督の手腕も大したもの。

 95、96年に連覇した仰木監督を彷彿させる猫の目打線で、今季のオーダーは143試合で141通りを数えた。僕も打順を見て驚くことが少なくなかった。でも、選手のほうは慣れていたと思うし、勝てばそれが正解。いろんなデータとにらめっこしながらのやりくりやった。投手も、最終戦でも活躍した宇田川や阿部という活きのいいリリーフ投手を使いながら上手に育てた。だが、ソフトバンクはCSでのリベンジに燃えているはずだし、ナカジマジックでどう返り討ちにするのか注目したい。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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