11月3日、中国の巨大オンライン・マーケットで知られるアリババ・グループの電子決済部門を請け負うアント・グループの5日に予定されていた上海と香港での上場が延期された。アントはこの新規株式公開(IPO)で3兆6600億円もの資金を調達しようとしていたのだから、大きなニュースとなった。今回のIPOは両市場で最大規模のものとなるはずだったからだ。
アントは投資家に向けて謝罪、その上で「規則に従い、今後の手続きを適切に処理していく」とコメントしたものの、どうも単なる仕切り直しで済まされる話ではないようだ。
「理由はアリババ創業者でトップのジャック・マー(馬雲)氏が規制当局の面談に呼び出されたから、というものでした。つまり、規制で取り締まりがあるということです。それにより新たに迫られる資本増強や免許手続きでコストがかさむことで、同社の評価額が半減。最大で14兆5000億円減少する可能性があるとの見方がアナリストから出されています」(経済紙記者)
とはいえ、直前の延期には首を傾げざるを得ない。同社の大幅な価値の減少は中国国債金融に悪影響を与えることにもなり、国内の産業競争に冷や水を浴びせかけることにもなるからだ。
すると通信社のロイターが「舌禍が招いたアント上場延期、ジャック・マー氏の大誤算」とのタイトルで興味深い記事を掲載した。
それによれば、ジャック・マー氏は10月24日に銀行業界・金融当局関係者・政府要人などが集まった会合に出席し、中国の銀行は質屋程度の感覚で経営をしているとスピーチしたという。これがそれら関係者の逆鱗に触れないわけがなく、首根っこを抑えにかかった。それが延期の理由だというのだ。
だからこれらの情報を併せれば、ジャック・マー氏は自分が感じている本音をポロっと漏らしてしまった。それで14兆5000億円の企業価値の毀損につながったということになる。
なんともスケールの大きな舌禍事件もあったものだ。
(猫間滋)