レジ袋有料化が“万引き癖”に火をつけた!? 知られざるクレプトマニアの生態

「買い物に行ってお金がたりないと、ついつい物を盗んでしまいます。良心の呵責や罪悪感はなく、むしろあの達成感や開放感がたまらないんです」

 そう語るのは、過去に万引きを常習的に繰り返していた江川恵子さん(仮名、66歳)。これまで3度刑務所に入り、現在は関東にある病院で「クレプトマニア(病的窃盗)」と診断され、治療を行なっている。クレプトマニアとは、窃盗を繰り返してしまう精神障害の一種だ。

 警察庁の資料によれば、2018年の万引きの検挙人数は6万1061人だったが、そのうち未成年者(14~19歳)が6449人なのに対し、高齢者(65歳以上)は2万4348人にもおよぶ。つまり、全体の4割近くを高齢者が占めているのだ。

 特に7月1日からは、レジ袋有料化が義務付けられたことによって、持参したエコバッグを利用した巧妙な万引きが増えているという。これまではレジ袋が「会計済みの証し」だったが、エコバッグでは判断しづらく、店側は万引き犯を見抜くことが難しくなったのだ。

 また、高齢者の万引きに関しては、盗む対象が食料品であるケースが、件数・比率的に多いため、一見「貧困」ゆえの犯行かと思われる。しかし、都内の病院で働く医師はクレプトマニアの“生態”について、こう解説する。

「万引きを常習的に行なっている人の中には、経済的に余裕がある人も多いため、お金に困っているから盗むというわけではないようです。誰からも評価されないという自己肯定感の低さやストレスから、ついつい物を盗んでしまう。特に万引きの場合、初回は発覚しないことも多いため常習化する傾向にあります。彼らのモチベーションは、物を盗んで得ることではなく、あくまで〝盗む〟という行為で得られる快楽なのです」

 冒頭で紹介した例のように、クレプトマニアの中には、実刑を受けても常習性が治らない人は多いし、万引きは発覚しづらいため、周囲の人や家族が気づかないケースも多い。そんな彼らを救う手立てはあるのだろうか。

「万引き依存症は完治が難しい病気ですが、専門医のもとで適切な治療を受ければある程度は防止できるでしょう。じつは買い物をする際に、商品を隠し持つためのバッグ類を持ち込まない、衣服のポケットを縫いつけて使えないようにするというのも効果的な対症療法でした。しばらく“万引き癖”をおさえてこんでいた人が、エコバッグを持参するようになって、再び盗みの衝動に駆られるケースは十分に想定できるでしょう。現段階で、個人レベルでできる対策法としては、店員と顔見知りの店で買い物をするようにする、極力ネット通販で買い物をするようにする、買う物を明確に決めて衝動買いしないことなどが効果的。それでも治らない人は、自分から友人や家族に相談したり、相談センターに電話してみるなどの対策が必要です」(都内病院勤務の医師)

 万引きは犯罪であり、盗人は罪人である。この負の連鎖を断ち切れるのは、あくまで本人の「意思」だけなのだ。

(橋爪けいすけ)

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