「刑務所に服役していた構成員をねぎらう放免祝いや出所祝いは、資金集めに利用される側面もあり、暴力団排除条例によって固く禁じられています。かつては高速道路のパーキングエリアに人を集めてゲリラ的に開催されることもあったようですが、当局の監視も厳しくなったことから、こうした風習もなくなっていきました。これがまた難しいところですが、社会的に見れば犯罪者でも、組織によっては功労者という見方もあるため、組織にとっては蔑ろにできない部分もある。そのため、“激励会”という形を取って、組員たちが長期のおつとめを慰労する場をもうける動きは全国的に見られていました」
こう語るのはヤクザ社会に詳しいジャーナリストだ。近年は“ヤクザ犯罪”の重罰化が進み、抗争事件において殺人事件を起こせば、容赦なく無期懲役刑が下される“厳罰社会”になった。それでも、「傷害」などで服役していた組員は、刑期を終えればシャバに戻ってくることになる。仲間の出所を盛大に祝いたくなる気持ちも理解できるが、こうした放免祝いに会場を提供したことで、居酒屋や飲食店が公安委員会の指導を受けたというニュースがたびたび報じられている。
「放免祝いはしたいが、カタギには迷惑をかけたくない。そんなジレンマを抱えながら、ある地方都市では、神輿の会や政治結社の名をかたって店を貸し切りにして“摘発”を逃れていたケースもあったと聞きます。ヤクザ側には詐欺罪で立件されるリスクがありますが、お店側には『騙された』と主張してもらえば迷惑はかからないとの見解だったようです」(前出・ジャーナリスト)
放免祝いをめぐる、当局とヤクザのいたちごっこが続いていたようだが、ここにきてコロナ禍の影響によって大きな変化が見られたという。
「やはりコロナ対策という面で、大人数が集まるのはカタギにも迷惑がかかるし、何より“親”に感染させてはいけないということで、集まりを自粛する動きが見られます。ある地方都市の組員に聞いた話では、お金だけ集めて、出所者にお金を渡すだけというのが、通例になっているようです。それも以前なら、封筒に組織名などが記されていたものですが、当然ながらアシがつくような受け渡し方もご法度。何も書いていない無地の封筒にお金だけを入れて、『ご苦労さん』と手渡しするならわしだとか……。ヤクザ映画などで、大物が出所する際、刑務所の前に高級車がズラッと並んだ光景を見ていた者としては、正直、少し寂しいですね」(前出・ジャーナリスト)
いまだワクチンの開発はおろか終息の糸口すら見えない新型コロナの猛威。ヤクザ社会の風習にも大きな変化をもたらしていたようだ。