緊急事態宣言が解除されてもなお、感染拡大を恐れてマスクが手放せない、という人が多い中、最近やたらと目につくのが、路上や植え込み、駅構内などに捨てられた使用済マスクだ。マスクの「ポイ捨て」は、なにも路上や植え込みに限ったことではない。都内で飲食店を営む男性が、困惑顔でこう語る。
「うちの店でも、マスクの価格が下がった頃から、テーブルの上に使い捨てマスクを放置していくお客さんが目立つようになりました。見つけたら一応声をかけて持ち帰るようお願いしてはいるんですが、中にはナプキンに包んだり、コースターの下に挟んで、そのまま帰ってしまうお客さんもいて……。営業中は手袋をつけられませんし、素手でつかまざるを得ないため、いつか感染するんじゃないか、と不安でたまりませんよ」
感染症の専門家によれば、物に付着した新型コロナウイルスの生存期間についてはいまだ諸説あるものの、プラスチック容器に付着後、気温20度で6日間から9日間にわたって生存するという研究結果も報告されている。
「つまり、たとえポイ捨てマスクといえども、感染の可能性は十分にあるということです。しかも、ポイ捨てマスクを、そのままゴミ箱に捨てれば、今度はそれを処理する清掃業者がウイルス感染のリスクがあります。なので、捨てる時は、最も汚染リスクが高いマスクの外側を触らず、ひもの部分を持ってポリエチレン製の袋などに入れて密封。そのあとにゴミ箱に捨てるようにすること。その際も、ウイルスが飛散しないよう、できるだけ蓋のついたゴミ箱に捨てることをお勧めします」(医療ライター)
人間は集団行動になるほど恐怖心や罪悪感が薄れ、結果、普段一人ではしないような行為をしてしまうことがあり、これらの行為は心理学では「リスキーシフト」と呼ばれる。
「あの人も、この人もポイ捨てしている。だから、ポイ捨て=恥ずかしいことであるとの認知が薄れる。たとえば、花火大会などでは普段ポイ捨てをしないような人が平気ですることがありますが、これなどは、リスキーシフトの典型的な例です」(前出・医療ライター)
とはいえ、ポイ捨てはれっきとした犯罪だ。
「悪質な場合は、軽犯罪法違反(刑事施設への拘置1日以上30日未満、罰金1000円以上10000円未満)や道路交通法違反(5万円以下の罰金)で罰則が科せられるケースもあります。間違っても、たかがポイ捨て、などと思うなかれ。悪質であれば罪に問われるということを認識すべきですね」(全国紙社会部記者)
そんな中、最近では話題になっているのが、ボランティアで路上のごみ拾いに貢献する「ピカリ」というアプリだ。
「このアプリは、世界中の人からゴミ拾いの写真を投稿してもらい、いつどこで、どんなゴミが拾われたかが一目でわかるというもので、路上のごみを撮影して拾うだけなのに『地域に貢献してる』という実感が味わえるとあってヤミツキになる人が急増しているといいます」(前出・社会部記者)
日本人サポーターがW杯のサッカースタジアムでごみを拾い、世界から称賛されたのは2018年のことだが、いまこそ、日本人としてそんな気持ちを取り戻したいものだ。
(灯倫太郎)