「可能性は大城」原監督の“正捕手発言”に秘められた「総動員野球」

 プロ野球の2020年シーズンは6月19日に無観客で開幕することが決定したが、選手の起用法に関しては今年も「試行錯誤の連続」になりそうだ。去る5月22日、巨人・原辰徳監督が報道陣向けの公開動画で野手の陣営などについて語った。興味深かったのは捕手の起用に関するこんなコメントだ。

「飛び抜けて成長できる可能性は、今年は大城(卓三)が持っているのではないかと…。大きく伸びている。守備、打撃含めてね」

 昨季は、正捕手不在と言ってもいい布陣だった。小林誠司、炭谷銀仁朗、大城を使い分け、加えて、ここにベテラン・阿部慎之助も控えていた。原監督の発言を額面通りに受け止めれば、「大城=正捕手の一番手」ということになるが、そうではないらしい。

「キャンプ序盤、打撃力のある大城を一塁に専念させる構想でした。でも『一塁専念』と聞き、大城が『打たなければならない』とプレッシャーを感じてしまい、『一塁兼任』と伝え直しました。精神的に楽になってもらうためです」(スポーツ紙記者)

 とはいえ、一塁のレギュラー争いはオープン戦で12球団最多の4本塁打を放った中島宏之が最有力だ。また、正捕手争いにしても、昨季、出場機会が4シーズンぶりに100試合を切った小林について、「年俸1億円」の契約更改が報じられたが(2019年12月)、FA流出を阻止するための3年契約だったと報じるメディアもあった。ゼネラルマネージャー制を廃止し、チーム編成の全てを握っているのは原監督だ。ということは、原監督は「小林は必要」と判断したのであって、炭谷を含め、捕手は今年も3人による併用制になると見るべきだろう。

「昨季、原監督は3人の捕手に先発投手を割り振って、担当制にしようとしました。リリーフ陣に不安があったので、先発投手に少しでも長く投げてもらうためです。同時に捕手陣のレベルアップをはかるためです。『先発ローテーション6人全員の長所を引き出すのは難しくても、2人か、3人なら』という発想でした」(前出・スポーツ紙記者)

 1番バッターにしても、そうだった。3割9分の高打率をマークした吉川尚輝が故障で離脱して以降は、何人もの選手をテストし、終盤でようやくベテランの亀井に落ち着いた。クローザー不在のリリーフ陣にしても、中川皓太をいったん定着させたが、最終的にはシーズン途中で獲得したデラロサを使っていた。

「今回、あえて大城の名前を出したのは期待の表れでしょう。でも、昨季の采配を見ていると、レギュラーは坂本、丸、岡本、新加入のパーラだけ。あとは選手の状態を見てスタメンを決めるのでは?」(球界関係者)

 大城が捕手兼一塁手なのは、選手全員が知っている。捕手と一塁手の両ポジションにつく他の選手に改めて喝を入れ、「若手にもチャンスはある」と訴えたかったのかもしれない。選手起用の試行錯誤が続けば、それは総動員で戦うという意味にもなる。チーム内競争を煽ることで開幕戦に向け、緊張感を高める効果を期待しているのだろう。

(スポーツライター・飯山満)

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