1時間半にわたる深夜の引退会見を行ったシアトル・マリナーズのイチロー。語られた言葉の数々に感動の声が鳴り止まないが、大相撲春場所で「イチローとかぶる!」とファンの涙を誘っている力士がいることをご存じか?
その力士こそ、モンゴル出身の元大関、まだ27歳の照ノ富士関。2015年5月場所に12勝3敗で幕内最高優勝、平成生まれで初の大関となった。横綱へ一直線とみられていたが、その後は膝の大ケガや内臓の病気などで、ピーク時がウソのような苦境に立たされた。昨年から5場所連続で休場。元大関が幕内どころか、十両、幕下、三段目さえ通り過ぎて序二段まで陥落。大関経験者がここまで番付を落とすのは前代未聞で、だれもが「引退」を予想していた。
ところが、現役続行にこだわった照ノ富士は、この春場所、序二段で7戦全勝の成績を収める(幕下以下は7番だけ)。24日の千秋楽に同じくモンゴル出身で14連勝中の狼雅と優勝決定戦を行って惜しくも敗れたが、周りからも「終わった」と言われていた状況から、復活への大きな一歩を踏み出したのである。
「イチロー選手は引退会見で、数々の記録を達成したピーク時のことより、成績が落ちてニューヨークやマイアミへトレードした頃の苦しさを熱く語っていました。引退は考えなかったけど、いつクビになるのか考える日々だったと。そして、昨年からは試合にも出られなくて、それでも若手と一緒に練習してきたことを誇りに思う、だから東京ドームで最後に試合ができた――といった話をしました。過去に横綱候補として脚光を浴びた照ノ富士も、周りは付け人しかいない序二段で歯を食いしばって闘っているわけで、その姿は若手に交じって練習したイチローの苦労話に通じるという相撲ファンが少なくなかったようです。イチローは引退しましたが、照ノ富士には『やれるところまでやってほしい』『序二段と聞いてショックでしたが、頑張ってる姿を見て泣けました』『引退しなくてよかった。照ノ富士はまだ若いし這い上がれる』という感動の声もありました」(週刊誌ライター)
地力や才能があっても、一度転落してしまうと這い上がることは極めて難しい相撲の世界。かつての地位に戻るのは並大抵のことではないが、東京ドームのイチロー選手のように、照ノ富士関にもぜひ、満員御礼の館内で大歓声を浴びてほしい。そう願っている大相撲ファンは多いはずだ。
(山田ここ)