WBC優勝・渡辺俊介が激白「今回の代表は09年Vチームと似ている」/侍ジャパンを世界一に導く金証言(1)

 06年、09年のWBCに出場し、2度の優勝に貢献。通算防御率1点台という実績を残した「ミスターサブマリン」こと渡辺俊介氏(46)。社会人野球・日本製鉄かずさマジック(千葉県)の監督という立場で、第5回大会をどう見ているのか。練習後の球場で話を聞いた。

─改めて、出場された大会の勝因や印象に残っている出来事についてお聞かせください。

渡辺 最初の大会は、まだWBCがどういうものかよくわからない状態でしたから、準備段階ではチームにどこかフワッとした空気がありました。辞退者も多かったですしね。メンバーを見渡しても、メジャーリーガーはイチローさん(49)と大塚晶文(当時は晶則)さん(51)しかいない。マスコミには『メジャーに勝てるわけがない』『せいぜいベスト8』なんて書かれましたよ(笑)。そんな中で、選手に力を与えてくれたのが王貞治監督(82)でした。第2ラウンドでアメリカに渡ると、憧れのメジャーリーガーが〝世界の王〟にサインを求めにやってくるんです。そのシーンを目の当たりにして、やっぱり王監督ってすごいんだなと誇りに思いましたし、その堂々とした立ち居振る舞いから、私たち選手も「物怖じしている場合じゃない」って覚悟を決めることができたんです。

 選手として引っ張ってくれたのがイチローさん。第2ラウンド初戦のアメリカ戦、試合前に「俺たちの野球の方が上だ」と選手全員にハッパをかけてくれて、その直後に先頭打者ホームラン。「俺たちはやれるんだ」と結果で示してくれた、大きな一発でした。

─戦いながら、チームによい雰囲気が醸成されていったんですね。

渡辺 決して下馬評が高くない中で優勝できたのは、王さんとイチローさんの2人がチームに自信をつけさせてくれたという部分が大きいですね。何もかもが初めてという大会で、いい波に乗ることができました。

─第2回大会はいかがでしたか。

渡辺 ディフェンディングチャンピオンということで、プレッシャーが全然違いました。キャンプから報道陣や観客の多さに圧倒されましたし、勝たなければいけないという状況はしんどかったですね。

─そのプレッシャーをはねのけ、V2を果たしました。

渡辺 そういう意味では、「史上最強」と注目される今回の日本代表は09年の第2回大会と状況が似ているかもしれませんね。

─前回優勝時の決勝でセーブを挙げたパドレスのダルビッシュ有(36)もいます。

渡辺 ダルビッシュは何かと制約がある中で宮崎キャンプの初日から参加し、みずから進んで情報発信に努めています。おそらく他の選手にプレッシャーがかからないよう、彼自身が防波堤になろうとしているのではないでしょうか。私が見る限り、チームリーダーとしての自覚を持って取り組んでいますよね。

─全体を俯瞰してみた時に、今大会の日本の強みはどこにありますか。

渡辺 私たちの頃は「スモールベースボール」を打ち出していましたが、今大会では海外のチームに引けを取らないパワーを備えています。さらに高い精度で作戦を遂行できる選手がそろっていることから、これぞ日本野球というものを見せてほしいですね。

─渡辺監督と同じく、広島・栗林良吏(26)、阪神・中野拓夢(26)、西武・源田壮亮(30)といった社会人野球経験者が代表入りしていますが。

渡辺 日本の野球には、高校野球の大会のように「負けたら終わり」という〝一発勝負〟の文化が根づいていますが、地域を背負った都市対抗という大舞台のトーナメントで戦った経験は大きいですよ。たった1球、1回のミスでチームが敗退しかねない。甲子園、社会人と緊迫した場面を何度も経験しているわけですから、準々決勝ラウンド以降はこうした日本人選手特有の素養がいきてくると思います。個人的には源田(トヨタ自動車出身)と中野(三菱自動車岡崎出身)の二遊間を見てみたいですね。

─古巣である日本製鉄かずさマジックを率いて4年目になります。

渡辺 うちのチームに走攻守3拍子そろった選手はいませんが、私はそれが逆に魅力だと思っています。それぞれが自分の長所を伸ばして、観客席を沸かせる選手になってほしいですし。暴論かもしれませんが、個人的には金属バットの使用を復活させてもいいと思っているんですよ。だって、松中信彦さん(49)や小笠原道大さん(49)、福留孝介(45)が金属バットを振り回していたわけですから(笑)。

 WBCを観て、後のない一発勝負の野球に惹かれた方は、ぜひ今年の都市対抗野球にも目を向けていただければありがたいです。

--市民球団として地域との交流を大切にしているという渡辺監督。これからもWBC世界一の経験を後進に伝えてほしい。

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