新型コロナが引き金となった米中メディア“締め出し”小競り合いの危うさ

 中国外務省は3月18日、中国国内に駐在するニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、ワシントン・ポストの米国主要3紙の記者の今年中に期限切れになる記者証を無効にすると発表。これによりビザの更新ができず、事実上の“国外退去処分”を行うとした。

「中国はここ最近、外国人記者へのビザの配給を1年までと制限しているため、自然と大多数の記者がこの対象となります。今回の措置では、中国本土だけではなく香港やマカオの滞在も認められなくなる。つまり、これら米国の主要メディアの記者は中国圏での取材は許されない。というより、“出ていけ!”と言っているようなものです」(中国事情に詳しいジャーナリスト)

 中国がこういった措置を講じるのも実は前段があって、アメリカは2月、中国の主要5メディアを中国政府の在外公館と同等に扱うとして、従業員数や不動産の購入に制限をかけた。これはつまり、「中国メディアはメディアではない」と言っているようなもので、今回の中国政府の動きは、これへの対抗措置ということになる。

 世界中が新型コロナウイルスの感染拡大に目を奪われる一方、米中経済戦争はそのまま継続。それだけではなく、今度はメディアの締め出し合戦にまで飛び火したわけだが、これも実は、新型コロナウイルス騒動がそのトリガーを引いていた。

「今回、中国政府がこういった措置を取ったのも、ウォールストリート・ジャーナルが、コロナの爆発的拡大を引き起こした原因として、習近平政権による隠ぺい工作があったことは明らかとの論説を載せたことが直接的な引き金となったのは明らかです」(前出・ジャーナリスト)

 中国が米国記者の締め出しを発表した直前には、着任したばかりの中国外務省次席スポークスマンが、「新型ウイルスを中国にもちこんだのは米軍」と発言。これにキレたトランプは、記者団とのやりとりで新型ウイルスを「中国ウイルスだ」と名指しして舌戦を繰り広げていた。

「さらにこれに先立つ3月10日には、習近平が武漢を訪れて、中国政府は事態を収束させたとのメッセージを発しましたが、世界に対する謝罪がないのはもちろん、非難を避けるために完全に居直り、むしろ成果を誇るという態度に出たことで世界中で怨嗟の声が燻っていた。しかも米軍に責任転嫁というのですから、トランプがキレるのも当然でしょう」(前出・ジャーナリスト)

 それでも今は、コロナという外敵がいるため表面には出ないが、この外敵が去った後、両国の叩き合いが一気に過熱する可能性はある。

(猫間滋)

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