今年2月の「米国科学アカデミー紀要」に続き、いくつかの科学系サイトで発表され、8月28日にも英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載されたのが、アメリカで野生の鹿に新型コロナウイルスの感染が広がっているという研究結果だ。
ネイチャー誌に掲載された論文によると、その多くは人間から感染したものだという。
「研究チームはオハイオ州の野生のオジロジカ約1500点の検体を調査したところ、10%以上に新型コロナの陽性反応が出たといいます。また、過去に新型コロナに感染していたことを示す血液検査では、推定23.5%が一度は感染していたことが判明しました。また、少なくとも30件は人間から感染したものだったといいます」(フリーライター)
野生の鹿といっても、エサをもらいに人里に来るケースもあり、狩猟や捕獲の際に人間と接触する機会があったという。懸念されるのは、人間から鹿だけでなく、鹿から人間へと感染する可能性が指摘されている点だが、これについてはさらなる研究が待たれるところだ。
ところで、「エサをもらいに来る鹿」といえば、日本では奈良市にある奈良公園の鹿が有名だろう。実は、同公園の鹿も、感染したわけではないものの、コロナ禍以降、その行動にある変化が起きたという。
「奈良公園の鹿はエサをねだる際、おじぎをすることで知られていました。しかし、コロナ禍以降、おじぎをしなくなったというのです」(前出・ライター)
奈良女子大学と北海道大学の研究グループが奈良公園周辺の鹿について調査を行ったところ、2017年1月までの5カ月間では、鹿に鹿せんべいを見せると平均で10.2回おじぎしていたの対し、21年6月までの1年間では平均6.4回と大幅に減少していたというのだ。
「研究グループによると、奈良公園の鹿のおじぎが減った原因は、コロナ禍により観光客が減少したことで、せんべいをもらう機会が減ったことによるものだそうです。『おじぎする必要』が少なくなったことから、次第におじぎをしなくなったと分析しています」(前出・ライター)
新型コロナウイルスは、人間だけでなくアメリカや日本の鹿にも多大な影響を与えているようだ。
(小林洋三)