中国人は西成に着実に根を張りつつある。別の中国人居酒屋で知り合った50代後半の客は、こんな話をしてくれた。
「実は私の女房が中国人で、娘が近くで居酒屋をやってまんねん」
スマホで娘の写メを見せてもらうと、若くてかわいい。その容姿をホメると、
「実は連れ子でね。血はつながっとらん。女房とも離婚して、今は一人や」
永住権目当ての国際結婚かどうかは、当人にしかわからない。ただ、彼のような国際結婚の経験者は西成では珍しくないという。
しかし、なぜ西成に中華街を作ろうとしているのか。地元の有力者に話を聞くと、
「ようわからんけど、言いだしっぺは福建省の出身者だと聞いている。彼らがここに横浜・中華街のように高級料理店を出したいと言うてね。西成の街全体を盛り上げたいっていうのは建て前で、きちんとした料理店にして、観光客が押し寄せてくれたほうが、地元客を相手にした居酒屋なんかより、もっと儲かるやん」
そういえば、先ほど入った中国系居酒屋の女性スタッフも福建省出身と言っていた。ただ、その手の店は淘汰の波にさらされているようで、
「店が増えすぎたわ。これ以上は無理ちゃうか。競争が厳しくて、潰れてるトコも多いんやで」(有力者)
そこで見いだした活路が、西成を金のなる観光地にするための「中華街構想」というわけか。実際、中国系居酒屋の密集エリアから徒歩3分の位置にある飛田新地は、すでに観光名所として外国人に認知されていた。
ちょんの間通りを歩くと、中国語や韓国語をしゃべりながら歩く男性が通行人の半分近くを占めている。外国人は遊べないと聞いていたが、中国人らしき観光客3人組が、客引き女性と身振り手振りで値段交渉をしているではないか。
しかもその後、男性のうち一人がコスチュームを着た女性を“お買い上げ”。笑顔を浮かべて部屋へと消えていった。別の客引き女性に尋ねると、
「さすがに青春通りの中央では外国人客をお断りしているけど、端っこのほうはとっくに解禁しとるよ」
その言葉を裏付けるように、ちょんの間街には自動外貨両替機までが設置されていた。ご丁寧に街の案内板で大きく紹介しているくらいだから、外国人の受け入れ態勢は万全だ。
ちょんの間エリアでは、女性たちが「カモ〜ン」「ストップ!」などと、道行く中国人に声をかけている。
サッカー日本代表のユニホームを着た若い娘とコトを終えた中国人に声をかけると、かなり興奮した様子で、
「ナイスッ、ベリーナイスッ!」
すると、日本語が達者な連れの中国人男性が、
「みんな若くてかわいい。まるで天国だ」
と、わざわざ友人の言葉を通訳してくれた。
風俗事情に詳しいタクシー運転手が言う。
「今は組合も外国人アカンなんて言わへんねん。女の子さえよかったらそんでエエ。だけど彼らは相場より多く払ってる。20分1万6000円のところ2万1000円。日本人なら30分遊べるんやけどね。まあ、外国人価格っちゅうやつやね」
ソープは高いけど女を抱きたい─。そんな労働者たちに憩いを提供してきた飛田新地でもまた、中国マネーが席巻していた。
西成の新・中華街で食べて飲んで、飛田で女を買う。そんな観光コースが定番となる日は訪れるのか。
中華街構想について、西成区役所に問い合わせたところ、
「まだコメントできる状況ではございません」(担当者)
日本の高度成長を支えたドヤの聖地とその一帯が、今大きく変わりつつある。