「ミスタープロ野球」として長年輝き続けた巨人の終身名誉監督・長嶋茂雄氏が、6月3日午前6時39分、肺炎のため都内の病院で死去した。89歳だった。
現役時代からファンを魅了し続けた長嶋氏は、巨人の監督を通算15年務め、指導者としても球界をけん引。野球人としての実績にとどまらず、卓越したエンターテイナーとして、アンチ巨人ファンからも愛された稀有な存在だった。
何よりもプロ野球、そして巨人軍に対する愛情は格別だった。
「我が国には3000万人以上の巨人ファンがいらっしゃる。その方々のためにプレーしなければならないんだ!」
監督時代、補強を重ねるスタイルを貫いた理由もここにあった。「巨人軍は強くなければならない」「ファンあってのプロ野球」――その信念は生涯変わることはなかった。
そんな長嶋氏にとって、最大の“希望”の一つが、愛弟子・松井秀喜氏の存在だった。公には語らなかったが、「いつか松井に巨人の監督をやってほしい」と願っていたことは関係者の間ではよく知られている。
象徴的だったのは、2021年の東京五輪の聖火リレーでの一幕だ。長嶋氏は04年に脳梗塞を発症し、車椅子での参加が予定されていた。日本オリンピック委員会(JOC)は特別な車椅子を用意したが、本人はこれを固辞。
「僕がアシストします」と申し出たのが松井秀喜氏だった。松井氏に支えられながら、王貞治氏と共に聖火をリレーした姿は、野球界だけでなく多くの国民に感動を与えた。
「2人は単なる師弟関係ではなかった。まるで家族のような、魂で結びついた存在でした」と古参の巨人担当記者は語る。
長嶋氏の逝去により、読売ジャイアンツは一つの時代の終焉を迎えた。巨人軍にとっての“精神的支柱”を失った今、球団は否応なしに「新時代」へと歩みを進めていくことになる。
長嶋茂雄氏の功績と魂は、野球界、そして日本スポーツ界全体に永遠に刻まれ続けるだろう。
(小田龍司)