次世代リニア「ハイパーループ」実用化の見通しが立たないワケ

 リニアモーターカーに代わる次世代の超高速鉄道として各国で研究・開発が進められている「ハイパーループ」。近未来を描いた漫画に登場する、透明なチューブの中を走り抜けるアレである。2012年、イーロン・マスク氏が次世代の超高速鉄道として開発プロジェクトを発表し、一躍注目を浴びた。

 実際、HTTやハイパーループ・ワンといった米国の新興企業にヴァージングループ、さらにカナダやオランダ、スペイン、スイス、インドなど各国の企業が参入。この4月にはお隣・韓国も本格的な開発に乗り出すことを政府が表明している。だが、現時点では実用化のメドは立っていない。

 実は、科学者たちは以前からこの近未来の乗り物について「時期尚早」と警鐘を鳴らしている。ハイパーループ事情に詳しいジャーナリストは次のように語る。

「人が乗り降りすることを前提に、真空、またはそれに近い減圧環境のチューブを長距離にわたって作ることは想定以上に難しいからです。しかも、チューブに亀裂が生じ、そこから大気が流れ込めば大事故につながります。チューブは温度や湿度の影響を受けやすく強度面に不安を抱えており、高速走行時に空気抵抗が増す場合があるとの問題も指摘されています。つまり、課題は山積みなんです」

 実際、マスク氏が代表を務めるスペースXは、米カルフォルニア州内に設置していた試験走行用のチューブを22年までに撤去。同じくこの分野で注目されていたハイパーループ・ワンは、23年末で事業を閉鎖している。

「ただし、撤退した企業がある一方、開発を続けている企業も多く、中国のように国が支援しているケースもあります。革新的技術の誕生によって実現する可能性はありますが、それが近い将来なのかどうかは別問題です」(同)

 日本はハイパーループ開発競争に加わっておらず、静観を決め込んでいる。今のところ、この判断は間違っていなかったようだ。

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