トランプ大統領は4月9日、相互関税について90日間の一時停止を発表した。この凍結で世界はホッと一息ついた形だが、このことにより、政権内部の幹部たちの間で壮絶な「内ゲバ」が起きているという。
「トランプ氏の急ブレーキの背景には、ベッセント財務長官の『台頭』があります。今回の凍結についてベッセント氏がトランプ氏を強く説得したのです。税政について財務長官が説明するのは当然と言えば当然ですが、これまで強硬に相互関税論を主張し、トランプ氏を背後で操っていたとされるピーター・ナバロ大統領上級顧問は怒り心頭だといいます」(金融アナリスト)
ナバロ氏は中国脅威論者であるとともに、日本の非関税障壁や貿易赤字も問題視してきた人物。G7の同盟国にも厳しく、こうした姿勢がトランプ氏の相互関税、貿易戦争につながっているとされる。
そんなナバロ氏を「バカ」扱いし、対立しているのが「政府効率化省(DOGE)」を率いるイーロン・マスク氏だ。マスク氏はCEOを務めるテスラの車の部品調達もあって、ナバロ氏が主張する高関税には納得できないでいた。一方のナバロ氏は、マスク氏を自動車会社経営者とみなさず、「組みたて屋」と鼻であしらい対立を深めていた。
潮目が大きく変わったのは4月8日前後だという。
「トランプ関税に伴って世界同時株安となり、アメリカ経済が一気に悪化するという危機感が高まりました。そして、米国債が売られはじめたという情報が駆け巡ったのです。売却しているのは米国債の世界最大保有国である日本の機関投資家筋と、世界2位の保有国である中国という情報でした。大量の米国債が売却されれば、国債に支えられているアメリカ政府の財政がパンクしてしまいます」(前出・アナリスト)
この米国債売却情報に素早く動いたのが、金融のプロ中のプロで、債権の動きを重視するベッセント氏だった。
「ベッセント氏は米国債の動向を踏まえ、トランプ氏に直訴したのです。さすがのトランプ氏も一時延期の道を選択し、ナバロ氏も同調せざるを得なかった。しかしその結果、マスク&ベッセント陣営とナバロ氏との内ゲバが始まったのです」(アメリカメディア関係者)
政策について議論を深めるのは大いに結構だが、世界を混乱させる内ゲバなどすぐにやめてほしいものだ。
(田村建光)